FE206NV と FE208NS のバックロードホーンは共用できるか ②

一度作るとその大変さからなかなか気軽に「次も」とはいかない大型のバックロードホーン型エンクロージャー。そんなバックロードをローコストに、しかも発展性のある形で作れないか? というテーマの第2回。
発展性を考慮して、ユニットは FE206NV にも FE208NS にも適合することが前提。今回はそれぞれのユニットに向けにフォステクスが公開しているバックロードホーンのエンクロージャーについて考える。

→第1回はこちら FE206NV と FE208NS のバックロードホーンは共用できるか ①

FE206NV と FE208NS のスペック

まずはそれぞれのユニットのスペックから。FE206NV と FE208NS のメーカー発表のデータ(抜粋)は以下の通りである。ほとんど似たようなスペックであり、最初は FE206NV を使い、次に FE208NS とステップアップしても基本的にはエンクロージャーはそのまま使うことができそうだ。

項目FE206NVFE208NS
インピーダンス
Re7.2Ω6.6Ω
Le0.10mH0.19mH
fs(F0)44.7Hz45.0Hz
Mms(M0)15.2g14.0g
Cms0.80 mm/N0.91mm/N
Bl10.70 N/A10.79 N/A
Qms7.256.87
Qes0.270.22
Qts(Q0)0.260.22
SPL(1m/1w)96.0dB94.0dB
実効振動板半径(a)81.0mm81.0mm
実効振動板面積206.12㎠206.12㎠
定格入力30W40W
Vas52.0L54.57L
バッフル開口径185mm185mm
質量3,200g4,500g
価格(税別)¥15,800¥30,900

FE206NV と FE208NS はいずれもバックロードホーン用ユニットということになってはいるが FE206NV についてはバスレフ型の例も公開されている。

実際に FE206NV のバスレフを聴いたことがあるが、これでも十分ユニットの素直な音調を味わうことができた。バスレフ専用の FFシリーズの 20cm フルレンジ FF225WK と比較すると低音の相対的な量感や全体のバランスではかなわないものの、高域の艶などについては特筆すべき部分もあり、そこに価値を見出すとすればバスレフとしての使用もありかもしれない。
ただそれであればもう少しレンジのバランスのとれた FE166NV(16cm)でも良いし、好評な FE126NV*(12cm)でも良い。あえて FE206NV を選択するのであれば、バックロードで使うのが良いと思う。

*FE126NV については過去に発表された 12cm ユニットの作品例が多くないことから使用例も少ないが「非常に良い」というお話を多くのお客様から耳にする。これについては別途プロジェクトを立てて取り組んでみたい。

エンクロージャー検討の拠り所

近年、フォステクスはスピーカーユニットに付属していた取扱説明書にかわり「Specification Sheet」と「Application Sheet」を付属している。(現在発売中のモデルのうち2019年半ば以前に発売された製品については引き続き従来通りの取扱説明書が付属)
「Specification Sheet」には寸法やパラメーターの他、測定値や各パーツの材料などを記載。「Application Sheet」にはその名の通りスピーカーユニットの応用例としてエンクロージャーの図面や板のカット図などが描かれている。

取扱説明書やカタログに掲載されていたエンクロージャーは従来であれば「標準箱」と呼ばれて(そう記載されているわけではない)そのユニットを使用する上でのそれこそ「標準的なもの」とされていた。確かに取扱説明書にあるエンクロージャーをそのまま用いれば大きく失敗するようなことはない。ユーザー自身がオリジナルの設計を検討する上でも、これをスタートポイントとすればまず間違いない。

エンクロージャーを検討するためのアプローチは色々と考えられる。バスレフ型についてはアライメントテーブルから、平坦な特性を得られる容積と共振周波数を導き出すという手法がある。(テーブル自体にもそれぞれの特徴を持った幾つかのパターンがあるので絶対的なものではない)しかし、フォステクスのフルレンジユニットは一般的な観点からは少し外れた特長やパラメーターを持つものが多く、このテーブルに当てはめると低域特性は平坦なのかもしれないが、やたらと高い周波数から音圧が下がり始めるような値が導き出されたりする。(もともとこれらのテーブルはフルレンジよりもウーハー向けの要素が強い)また、低域部分を平坦にしたところで、中域の音圧特性は物凄い勢いで上昇していたりするので、多くの場合はこうしたテーブルに当てはめて考えても「素直な音ではあるものの何となく物足りない」という状態になりがちだ。

そのような意味では取扱説明書や 「Application Sheet」 に掲載されているエンクロージャーの方が拠り所としては優れているのだが、そうはいっても「冒険」の少ない無難な設計の範疇は超えていない。最大公約数的なものではあると思うが、その人にとってのベストとは限らないだろう。せっかく個性派ユニットを使って作るのであるから、これだけで終わってしまうのももったいないと思う。

バスレフについては以上のような事情はあるにしろまだわかりやすいが、バックロードホーンは更につかみどころがない。一部のマニアであれば勘所を押さえていて、自分好みのバックロードを設計することができるのかもしれない。しかし実際には自分がどのような音が好みなのかを把握している人も多くはなく、ましてそれを実現するとなるとかなりの難易度だ。

一方で過去の巨匠のモデルが情報として多く存在するのも FE 向けバックロードの特徴だ。一人の人物が長い期間に渡って繰り返しブラッシュアップしてきた作例を参考にすることができるのはメリットとも言える。しかし作者がどのような意図を持って設計したか、当時使われたユニットがどのようなコンセプトのユニットなのか、こうしたことを理解せずに作っても好みに合わなかったり現代のユニットと当時のエンクロージャーとのマッチングに苦労することもある。

「Application Sheet」 に掲載されているバックロードホーンはそのような意味からもバスレフ型以上に拠り所として安心して参考にすることができるものであろう。

Application Sheet に掲載されたバックロードホーン

以上を踏まえ、FE206NV と FE208NS の Application Sheet に掲載されたバックロードホーンを見てみよう。

FE206NV の箱は h1000×w316×d450、FE208NS の方は h918×w306×d468 となっている。後者は底面に袴板、バッフルも2枚重ねとなっているので比較する上での実質的な大きさは高さ 900、奥行 450 と言える。

こうして見てみると FE206NV の Application Sheet に掲載されている箱の方が FE208NS のそれよりも大型であることがわかる。

参考までに FE208NS 用のエンクロージャーとして発売された BK208NS の方も寸法を見てみると h1018×w296×d486 となっている。これも板厚は 18mm で底板とバッフルは2枚重ねである。グリルも含んだ寸法であることや背面の板が少しセットバックしていることも考慮すると比較するための寸法は 高さ1000mm、奥行およそ450mm と言える。単純に全体の体積を比較すると次のようになる。

FE206NV Application Sheet BH0.142㎥
FE208NS Application Sheet BH0.132㎥
BK208NS (FE208NS 専用ボックス)0.133㎥

単純に体積だけで比較するのもどうかとは思うが FE206NV の 応用例として掲載されているバックロードが最も大きい。昔ながらの概念に【マグネット大きい → Qts 低い →大きいホーン(広めのスロート)】というものがある。そう単純な話ではないのだが、FE206NV のマグネット径が Φ145mm、FE208NS は Φ156mm であることを考えると、FE206NV の応用例のバックロードの方が大きいという点を疑問に思う方もいるかもしれない。しかし、Application Sheet の図面はあくまでも一例であり、あくまでも「応用例」の一つなのである。仮にこれを「標準」とするのであれば前述のような単純な概念は別としても、やはり FE208NS のエンクロージャーの方を大きくするであろう。

上のグラフのグレーのラインは FE206NV の Application Sheet に掲載されているバックロードのホーンの拡がりをグラフにしたものである。ホーンのどのルートをもってホーンの長さやその地点における断面積とするかについてはいくつかの考え方があるが、実際の動作とホーンのシミュレーション結果が比較的近い結果となるやり方で計算している。青いラインは fc を 30Hz とした場合の理論カーブだが、こうして重ねて見てみるとこのバックロードは 30Hz を基準としているように見える。開口付近で大きめに広げるのは長岡式でもよく見られる。

さらに30Hz 以外のカーブも合わせて比較するとこのようになる。

こちらのグラフのグレーのラインは FE208NS の Application Sheet に掲載されているバックロードのホーンの拡がりをグラフにしたものである。青いラインは fc を 28Hz とした場合の理論カーブだ。おそらくこちらは高さ 900mm 以内、奥行 450mm 以内とすることを前提に設定したのだろう。初めからこのような中途半端な数値を設定することは少ない。FE208NS 用のバックロードを考えるとき、高さ900mm のリミット(サブロク合板から切り出す時に無駄が少なくなりやすい。奥行の 450mm も同じ。)を設けずに設計したとしたら、FE206NV のバックロードと同じようなものになったかもしれない。

こちらも 28Hz 以外のカーブを合わせて比較するとこのようになる。カットオフを 30Hz にしていたら狙いの外径寸法におさまらなそうだ。幅方向に若干余裕があるのでもしかすると30Hz でもギリギリいけたかもしれない。

こちらは FE206NV と FE208NS それぞれの Application Sheet のホーンの拡がりをグラフにしたもの。これだけをみれば、グレーのグラフ(= FE206NV)のバックロードの方がより駆動力を必要とするホーンであるように見える。しかし、ユニットのスペックを比較すると同じエンクロージャーを共有できそうなスペックであるし、そもそも FE208NS の方がセオリーからすれば大きなホーンを駆動できそうなものなので、結果これらのエンクロージャーはどちらのユニットでも使えるものと推測できる。

FE206NV のバックロードは サブロク3枚+600×910mm 1枚。 一方 FE208NS のバックロードはサブロク3枚を使って作る。大きくても構わないということであれば FE208NS を FE206NV の Application Sheet に掲載されたエンクロージャーに入れても特に問題はなさそうだ。なお、空気室の容積は FE206NV 用が約12.1ℓ、FE208NS 様が約10.8ℓだ。(ユニットのおよその容積はマイナスしてある)

同様に FE206NV / FE208NS それぞれの Application Sheet 掲載のバックロードと 25Hz, 30Hz, 35Hz の理論カーブを比較したのがこちらのグラフである。カーブからは FE206NV の方が量感を意識した設計、FE208NS の方はそれよりも低域の締まりと低域方向のレンジを重視する方向に寄っていることが伺える。極端な違いはないが、傾向として感じ取れる程度の違いはあるだろう。どちらのユニットを使う場合でも、好みよってどちらを選択しても良さそうだ。

FE206NV & FE208NS 共通バックロードの設計

これらを踏まえ、第3回ではより具体的に「ローコストかつ発展性のあるバックロードホーン」を考える。今回見てきた内容からわかるとおり FE206NV と FE208NS の違いはそれほど強く意識する必要はなさそうだ。すでに大まかな設計は完了しているのだが、そのバックロードホーンはサブロク2.5枚で2台制作することが可能である。20cmバックロードであることを考えるとかなり少ない板材で作ることができる。(FE206NV 用はサブロク約3.3枚、FE208NS 用はサブロク3枚の設計となっている。ただしこれらが 18mm厚であるのに対し、当方は21mm厚で設計している)シンプルな構造ではあるが「板材をケチった」感じはほとんどなく、見た目の重厚感もそれなりにあるので、成功したら定番モデルとして推奨していくつもりだ。

「FE206NV と FE208NS のバックロードホーンは共用できるか」シリーズを書いているうちに、先日アップした 10cm フルレンジ FE108NS の検証の続きを進められる環境が整ってきた。20cm のシリーズの第3弾より先に、そちらをレポートすることになりそうなので、どうぞそちらもお楽しみに。FE108NS 用スワン【Tundra Swan】を聴きます。

【FE108NS を検証するシリーズ】

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