FE206NV と FE208NSのバックロードホーンは共用できるか ③

FE206NV & FE208NS 共通バックロードの設計

「FE206NV と FE208NS のバックロードホーンは共用できるか」のシリーズ第3回は最終回。いよいよいずれのユニットでも使えるエンクロージャーを考える。第1回ではそもそも異なるユニットで同じエンクロージャーを共用することは可能なのかについて考察した。

続く第2回では FE206NV と FE208NS の比較と、メーカーが作例として発表している Application Sheet に掲載されているそれぞれのバックロードホーンについての比較検証を行なった。

第3回ではこれまでの検証を踏まえ、具体的に「ローコストかつ発展性のあるバックロードホーン」について考える。繰り返し述べてきたとおり FE206NVFE208NS という2モデルについてはエンクロージャーに関してユニットの違いをそれほど強く意識する必要はなさそうだ。これらのモデルの特長を活かし、できるだけ簡単かつローコストに制作することができるエンクロージャーを考える。

そもそもなぜこの2モデルか

ローコストに作るのであれば、エンクロージャーも小さい方が良いし、ユニットも小型のものの方がコストはかからない。今回あえて 20cm 口径のユニットを取り上げたのにはいくつかの理由がある。

20cm でしか味わうことができない世界

小口径ユニットでしか味わうことができない世界があるように、20cm のようなフルレンジとしては大口径のユニットでしか味わうことができない世界もある。もちろん小口径であっても音楽を聴くのに十分な低音を再生することが可能であるし、高音域については小口径の方が有利だ。20cm フルレンジが再生する高音を分析的に聴けば、どこかに粗が見えてきてしまう。(多くの人にとって「全くダメで話にならない」ということではない)多くの場合ツィーターを加えた方が印象は良くなるし、物理特性が向上することも間違いない。

一方低音については振動板のわずかな動きで一定量の音圧が確保できることの効果は大きく、余裕をもって低音を再生できる。このことが再生される音楽全体に与える影響は大きい。20cm フルレンジが聴かせる低音の量感やスピード感は小口径フルレンジが聴かせるものとはまた別物だ。

fレンジについても同じようなことが言える。低域方向に僅かでもレンジが拡大すれば、録音されたその場所の「空気感」の表現力は変化する。これは口径の違いだけで現れる変化ではないが、口径による影響も大きい。

こうした特長は絶対的なものではない。小口径、大口径、フルレンジ、マルチウェイ、それぞれに良さもあれば苦手なところもある。そうした区分だけで全て語れるほど単純なことでもない。しかしながらこの口径のフルレンジを選択することでしか得難い音があり、今回はそれを目指すということだ。

20cm バックロードホーンのバリエーションが少ない

小口径フルレンジは比較的小型であるがゆえに気軽に実験しやすい。それゆえに参考となる例も多く体験できるチャンスも多い。ところが 20cm となると参考となる例が一気に減る。かなり昔の長岡式 D-3系、D-5X系はそのまま使えそうなものが多いが限定品で使用されているケースがほとんどで設計や調整の状態も限定品向けだろう。不安要素は多い。
キットなどで安価なものも見られるが率直に言って怪しげなものもあり、「〇〇というエンクロージャーに入れたがうまく鳴らない。どうすれば良いか」というサポート依頼も絶えない。売られているものだからと言って全てがしっかり設計され、検証がなされているものだと安易に考えない方が良い。
そこで手軽に実験できるローコストな 20cm モデルだ。手軽とは言っても h900 × w337 × D45 0<mm> とそれなりに大きいので、あまり手軽さを強調するようなものでもないのだが。

基本構想

FE208NS と FE206NV 。FEシリーズ最大口径のこれらのユニット独特のスピード感。これを活かした比較的オーソドックスな設計を目指す。第2回でも書いているとおり、それぞれのユニットの Application Sheet に掲載されているバックロードホーンでも全く問題はない。外観や作りやすさ、トータルのコストで考えると良い。外観はお好みだが、作りやすさは今回設計したモデルが最も簡単だと思う。コストはどれもそう大きくは変わらない。

以下は今回設計したモデル(仮に XP206BH とする)と FE206NV, FE208NS それぞれの Application Sheet に掲載されたモデルのホーンの広がりの変化を表したグラフだ。

極端な違いはない。強いてあげるとすれば青い線の FE208NS のホーンは最も長いが広がりは少ない。 FE206NV と XP206BH のホーンはそれと比べればやや短いが広がりは大きい。それぞれスタート地点の断面積が異なるのでグラフの見た目の感覚とはズレがあるが、それぞれのホーンのカットオフ周波数は概ね以下の通りである。直管構成のホーンなのでそもそも理論とはズレているのだが理論カーブと重ねるとほぼ次の数値と近くなる。

  • FE208NS:28Hz
  • FE206NV:30Hz
  • XP206BH:29Hz

FE206NV の Application Sheet のモデルと XP206BH は 1.4m 付近以降から開口部にかけて強めに広げているので、その範囲では理論カーブからは大きく外れている。これには量感を上げたり、クセをやわらげる狙いがある。そもそもここまでカットオフが低いホーンでこのホーン長では十分な開口面積にまで到達しない。開口付近でのインピーダンスのアンマッチは低音特性の大きな乱れにつながる。開口部だけに集中するアンマッチを分散させるということだ。

ホーンを理論カーブに近い状態のまま、十分な広さまで広げたシステムにするなら、カットオフを上げるかホーンをもっと長くすることになる。例えばカットオフを 60Hz 程度にして、ガバッと開いてしまえは、ホーン長は短くても(ガバッと開くのでエンクロージャー全体のサイズはそれなりに大きい)低音特性はそれほど乱れない。しかし低音特性は一定の音域までを再生した後はバスレフのように急降下する。これはこれで狙いとしてはアリだがあまりこのような作例が見られないのは挑戦者が少ないからか。あるいは音質的にメリットが少ないのかもしれない。(私も挑戦したことがない。一度やってみても良いかもしれない。)

特性が乱れてでもカットオフを下げてレンジを延ばしておくことは、実際の使用環境ではメリットがあることも多い。結局は部屋の影響で低音特性はある程度乱れることになる。もともとあまり良いとは言えないバックロードホーンの特性が、ある程度補正されてしまうこともある。(もちろん逆に作用してしまうこともあるのだが)それならば特性の乱れはあまり気にしなくても良いとも言える。
ホーン動作を理想的にすることだけに着眼すればできる限りホーンは長い方が良いがもちろん限界はある。十分な開口面積まで広げるとかなりの巨大エンクロージャーになってしまう。部屋に入らないサイズでは使えない。仮にそうした制約がないとしても、そもそもそんなに大きなホーンをドライバーが駆動できるのかという問題がある。FE208NS については約 4.5m のホーンを駆動させたことがあるが、特に駆動できていないという印象はなかった。それにしてもどこかに限界はあるだろう。

時間的な遅延が指摘されることもある。バックロードホーンはもともと 2m くらいは遅れてきている。時間にしておよそ 0.006秒 だ。これが 5m だとだとすると 0.015秒。この 0.009秒差をどう問題にするか。位相の問題もあるので単純に問題ない時間差だと断じることはできないが、壁の反射音も含めて聴くことを考えると、時間差よりはドライバーの駆動力のことを気にした方が良い。実際にワンテンポ遅れているように感じることもあるのだが、これはホーンの長さやホーンの本来あるべき動作に起因するというよりは、想定していないホーンの響きに問題があることが多い。距離によって生じる「時間差」に問題があるのであれば響きをコントロールしてもそれゆえに生じる「時間差」は残るはずだが、響きをコントロールするとそう感じていたものは無くす/あるいは軽減することができる。

FE206NV と XP206BH はほとんど差がない。おそらく音もそれほど大きくは変わらないだろう。強いて違いがあるとすれば、スロート付近の広がり方が XP206BH の方が不自然さがないことだろうか。ただ FE206NV の方も最初にいきなり広くなっているところが実際にその通りに動作しているとは考えにくく、グラフで見る以上に動作としては不自然さは生じていないと思われる。少し気にはなるのだが。

使用する板材の量はペア分でそれぞれ概ね次の通りだ。

  • FE208NS 用:18mm 厚のサブロク × 3枚
  • FE206NV 用:18mm 厚サブロク × 約3.3枚
  • XP206BH: 21mm厚サブロク × 2.5枚

厚みが異なる上、それぞれ廃棄量も異なるのでどちらが経済的かは判断しにくいところだ。廃棄部分を含む板材の体積だけを比較すると次のようになる。(小数点第5位未満四捨五入)

  • FE208NS用:0.0894㎥
  • FE206NV用:0.0984㎥
  • XP206BH:0.0870㎥

XP206BH は他の2モデルと比較すると廃棄部分は極めて少ないのでこれをもって完成後の質量が軽いということはない。

外観は正面がのっぺりとした印象の Application Sheet のモデルと比べると XP206BH は往年の長岡式バックロードのように開口部を階段上にしておりそれがアクセントになっている。開口部の階段も板材を節約するためにこれも長岡式バックロードでよく用いられたデッドスペースに重量物を敷き詰めて階段を形成する方式を採用した。この部分の素材を変えることで変化が楽しめることはポジティブに捉えればメリットと言える。

側板を 900×450mm にしてあるのもポイントだ。後からサブロク合板1枚分の材料を追加することで、側板を前面2枚重ねにグレードアップすることができる。さらに若干の材料で底板も強化すればさらに重量アップ。外観も重厚感を増す。音にもさらに締まりと力感が出てきそうだ。最初に使用したのと異なる素材を使えばチューニングすることもできそうだ。(どのような音になるのかはある程度板の特性を理解していないと予測することは難しいかもしれない)チューニングとはいかなくとも、異なる厚みや異なる素材を加えることで響きの種類が分散され、全体の質感が向上することはよくある。

「この素材が良い」といって全てにおいて徹底して同じ素材を使い、「重い、硬い、鳴きが無い」などと自己満足してはならない。木材であれば多かれ少なかれ鳴きはある。その鳴きの質が問題だ。同一素材の同類の鳴きは僅かな量では美しくても、過剰になった時には必ずしも美しい響きではなくなることがある。

ちなみに、素材の鳴きを聴く時によく手の甲でコンコン叩いて確認することがある。あれで木材がどう響くのかは分かるのだが、エンクロージャーは叩かれた音で鳴くわけではない。エンクロージャーとしの響きは残念ながら使ってみなければ分からない。叩くよりは「さする」ことで得られる感触の方が感覚的には近いらしい。

21mm厚サブロク1枚プラスαで強化し、さらにユニットを FE206NV から FE208NS にすると外観は以下のように変わる。これでも使用する合板はペアでサブロク4枚弱だ。

FE206NV から FE208NS への交換

FE208NS(PCD Φ213)と FE206NV(PCD Φ220) では ネジ穴の位置は FE208NS の方が 3.5mm 中心寄りになる。FE208NSのフレームは φ230 なので、FE206NV のネジ穴はギリギリ FE208NS のフレームに隠れる。

ただし、ネジ穴は 12時の位置を基準にすると FE206NV のネジ穴とは干渉する恐れがあるので、22.5° 傾ける必要がある。そうしておくと、再び FE206NV に交換したときも FE208NS 用のネジ穴はギリギリ隠れることになる。
22.5°傾けた場合、 FE208EΣ のような HP振動板の場合は振動板の「星形」の凹凸形状が傾いて見えてしまうので少し気持ちが悪い。FE208NS は通常のカーブドコーンで円対称となっているので、22.5° 傾けても外観上は何ら問題がない。以前のモデルでは良く見るとハトメの位置が傾いているのが分かってしまったがハトメレスの FE208NS ではその点でも問題がない。

いきなり合致したニーズ

このような構想をしているうちに一つの問い合わせを頂いた。FE206NV または FE208NS を使ったバックロードを検討しているが、Fostex BK208NS は少しお高いとのこと。(BK208NS は 丸型フレーム専用で、フレームのサイズもネジ穴の位置も異なるので FE206NV は使うことはできない)そんなニーズにはまさに XP206BH がぴったりだ。材料はかなり少な目に抑えられているし、FE208NS への発展も視野に入っている。提案は採用され、制作されたのが次のバックロードホーンだ。

カラーは露出を確認するためのグレーカードと同じ色というご指定に合わせて18%グレー。結果的に Altec A7 のような仕上がりとなり、サブコーン付きユニットの外観と相まって結構格好良いレトロ風スピーカーに仕上がった。

ユニットはお客様支給のため納品時に取り付け。ユニット付けたては色々な音が過剰気味になることが多いので、ある程度の調整は必要だ。部屋も少しライブ気味なので初っ端から吸音材ゼロというのは少し難しい環境。ただやりすぎるとすぐに鈍った音に変化するため調整はほどほどでなければならない。いずれは吸音材ゼロでいけるようになるかもしれない。

試聴は基本的にお客様のお手持ちのソースで。アコースティック系のジャズソースなどはフルレンジの良さが存分に活かされて生々しく鮮明。低音もタイトで量感も過剰にならずに適度。さらにタイトにするには前述のグレードアップが効果ありそうだ。さらにガツンと芯のある低音が飛び出してくるようになるだろう。今回は側板1枚の状態で塗装までしてしまっている。グレードアップを想定するなら塗装はその後の方が良いだろうが、塗装しているからこそ側板1枚でもここまで音が整っているとも考えられる。塗装しない状態で聴いていたらまた違う印象だったかもしれない。

BK208NS + FE208NS の組み合わせと比較した場合、今回の XP206BH + FE206NV は価格的には完成品(塗装あり)でも半額近くまで下がる。ご自身で組み立てるとしたら、おそらく5分の1くらいに収まるだろう。それでこのサウンドが手に入るとすれば、なかなかのコストパフォーマンスだ。

20cm バックロードはサイズ的に試聴用として常設するのはなかなか難しいのだが、このモデルは何とかして手元に置いておきたいと思わせるサウンドであった。シンプルな構造ではあるが「板材をケチった」感じはほとんどなく、見た目の重厚感もある。今後も定番モデルとして推奨していくつもりだ。完成品(組立まで、塗装まで等)、板材カットなどについてはお問い合わせください。また板材カットご依頼の際は、【板材カット】ご依頼時のポイントもご参照ください。

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