T360FD は二つの意味で ”2way” システムを実現する

フォステクスの新製品 T360FD は異色のツィーターだ

フォステクスから発表され、2023年1月に発売予定の「T360FD」。早速、聴く機会を得ることができた。特徴はなんといっても Folded Diaphragm(フォールデッド・ダイアフラム)方式と名付けられたダイアフラムだろう。波打ったような形状の正方形のダイアフラムを備えている。イメージ的になんとなく音圧が低そうな気がしたが、スペックでは93.5dB となかなかの高音圧だ。

これまたイメージから、 2way スピーカーのツィーターが主な用途かと思ったけれども、これがなんと(お得意の/あるいは「またか?」の)フルレンジスピーカーとの組み合わせでもその特長を遺憾なく発揮するから驚いた。通常の 2way でウーハーと組み合わせる場合は 10cm や 16cm、フルレンジにアドオン的に使う場合には 16cm や 20cm との組み合わせが紹介されている。

フルレンジにはホーンツィーターでは?

フルレンジスピーカーといえば、組み合わせるツィーターはホーンツィーターというのが定石だ。ハードドームはともかく、ソフトドームを組み合わせた場合はその音色が合わず、違和感のあることが多い。音圧特性だけを見れば、良さそうに見えるものもあるが、質の面の連続性も考慮しなければならない。

この T360FD、フルレンジと組み合わせてもなかなかに面白い。フルレンジは音源が集中しており、その音場感はマルチウェイではなかなか得難いものがある。もちろんモデルにもよるけれども、左右はもちろん、上下、前後の描き方が精密で、立体的。よくできたフルレンジのシステムでは(フルレンジのシステムでなくてもそうなのだが)オーケストラの楽器のは前後左右の配置がはっきりと明瞭に現れる。

ここにホーンツィーターを追加してきちんと調整を行えば、その明瞭さはより向上。さらには低域のリニアリティ、リアリティも向上する。

そこで T360FD だ。フルレンジへのアドオンツィーターとしてセットしたホーンツィターを、このフォールデッド・ダイアフラムのツィーターに交換すると、音楽の描かれ方は一変する。オーケストラは前後の表現が薄くなり、左右に拡大。3次元的なリアリティというよりはかなり精緻に描かれた2Dの絵のような感じになる。

これはネガティブな表現に聞こえてしまうかもしれないが、必ずしもそうではない。確かにオーケストラを聴く時にこれでは違和感があるかもしれない。しかし、映像に合わせるような音の場合はむしろこのくらいの表現の方がマッチするのではないかと感じたのだ。ホーンツィーターによる前後表現や立体感のリアリティが2D映像のリアリティと合わないのだ。この T360FD であれば、違和感なく2D映像とマッチするのではないか。

「面で迫る音は」ホーンツィーターとは対照的

ロックやポップスなど、そもそも奥行き表現がそれほど求められず、面で迫ってくることで気持ちよく楽しめるような音源では T360FD の表現力がものを言う。ホーンツィーターのような、あえて表現するならレーザービームのように飛び出す音ではないが、面で聴かせるこの音がまた気持ち良いのだ。「ツィーターだけでそこまでなるか」と思われるかもしれないが、極端にいえば、ジャズ喫茶でかぶりつきで聴く 40cm 3way のような迫ってくる感じが、たった数センチのこのツィーターによって表現されることは驚きだ。

かといって、「この音でずっと聴いていたいか」と問われれば、個人的にはそうでもない。ホーンツィーターのような前後感を含めた精緻な表現を聴きたくなることもあるし、どちらかといえばそちらが正当で、レファレンスとしてはそのような状態を保っていたい。

しかし、アドオンツィーターとしてフルレンジと組み合わせる使い方ならば、システムの天板に設置したツィーターを気分で交換すれば良いだけなのだ。エンクロージャーのバッフルに直接取り付けてしまったツィーターであればわざわざ交換するのも億劫になってしまうし、そもそもサイズが全く同じでなければ、取り付けることすらできない(T360FD の開口寸法は Φ68mm)。天板のアドオンツィーターを交換するだけなら簡単だ。

フルレンジを 2way(厳密な 2way ではないかもしれないが)化するのと同様に、ホーンツィーターか、フォールデッドツィーターかで自身のシステムの音の傾向を 2-way(2つの方法)で楽しめることになる。しかも手軽に。

ツィーターの交換だけでここまで大幅にシステムの特徴が変わるのかということだが、少なくとも私が体験した範囲ではこれは本当だ。小口径フルレンジから20cm 程度のフルレンジまで、このツィーターの適応能力は高い。

なお、下方向のレンジはそこまで広くない。30mm ダイアフラムのツィーター(FT48Dなど)がフォステクスのラインアップからなくなってしまって久しいが、この T360FD も 20cm ウーハーと繋ぐのは難しいようだ。せいぜい 2kHz クロス、16cm ウーハーまでといったところだろう。(20cm を 2〜3kHzまで使うことを躊躇しないのであれば問題ないのか…)

ちなみに FW208HS との組み合わせでは Peerless DA32TX00-08 (1 1.4” のハードドーム)がなかなかよかったとの報告もある(私は聴いていない) ざっと見る限りDayton Audio DC28F-8(1-1/8” ソフトドーム)も良さそうだがどうなのだろうか。そのあたりは継続課題として残る。 T360FD で全て解決とはいかない。

Fostex T360FD, ¥49,500(税込/1台)
今後はホームスタジオでも

現時点*では試聴機(というよりも私有したい)は手元にはないものの、今後準備はする予定なので、準備が出来たら、色々な方に聴いて欲しいと思う。ホームスタジオの環境ではどのように鳴るのか、今から楽しみだ。
*2023年8月時点ではすでに試聴環境が整っています