今後作ってみたい長岡モデルを選出するために色々な本を見直している。すると、いくつかのモデル、特にバックロードの記事に「ソフトタッチを狙う」とか「ややソフトタッチ」(D-6, D-201, D-202, RD-2)という表現が出てくることに気がつく。おそらく似たような意味合いとして「ゆったりとした鳴りっぷり」(D-9a) 、「優しい感じのバックロード」(D-130)などという表現もある。
これはハイスピードでバリバリと鳴りまくる(D-10)、豪快にして繊細(D-70)、高能率・ハイスピードタイプだが重低音は不足(D-108)といったものとは反対の方向性をもったバックロードホーンのことと思われる。
これはエンクロージャーの方向性だけではなく、ユニット自体やユニットとエンクロージャーの組み合わせによって、スピーカーシステムとしての特徴がソフトタッチということであろう。「ハイスピードでバリバリと鳴りまくる」バックロードホーンシステムのユニットを交換することで、「ソフトタッチな傾向になる」ようなケースもありそうだ。例えば D-37 は当初 FE168Σ で製作されたのちに、FE168SS で再度試聴/測定が行われた結果「ハイスピードでバリバリ鳴りまくる」システムとなったわけだが、 FE168Σ のときはどちらかといえばソフトタッチという感触のコメントだった。同じ FE168Σ を使ったエンクロージャーとしてはバスレフ型の BS-168(ノヴァ) の方がスピード感や瞬発力の点で優れているとも書かれている。もともとは FE168SS を想定して設計されたものだが、Σ だとソフトタッチ。これは同一のエンクロージャー(D-37)でありながらユニットの違いによって「ソフトタッチ」になっている例の一つだ。(逆に FE168Σ は同一ユニットでありながら、D-37 ではソフトタッチだが BS-168 ではそうでもない)
以下は明確に「ソフトタッチ」という表記が見られるバックロード作品で、意外にも「ソフトタッチ」を指向した作品は多い。
型番 | メインユニット | コメント |
D-6 | Coral 8A-70 | ソフトタッチでくせのない再生音。バックロードとは思えぬフラットな f特が特長。 |
D-201 | Fostex FE204 | 比較的ソフトタッチのサウンドを狙った設計 |
D-202 | Fostex FE206Σ | ややソフトタッチのサウンド |
RD-2 | Fostex FF165N | ソフトタッチの音場型スピーカーを狙う |
D-9a | Fostex FE206Σ | ゆったりとした鳴りっぷり |
D-113 | Fostex FE106Σ | ハイスピードで立ち上がる低音ではなくゆったりと出てくる低音 |
ソフトタッチかどうかは、ユニットの特徴、そのユニットと組み合わせるエンクロージャーの特徴、そのユニットの低域と中高域のバランス、ユニットとエンクロージャーのバランス、これらが総合的にどのように作用するかによって決まる。もちろん全く異なる方向性のユニットで「ハイスピード」を狙うことはできないし、その逆もあるのだが、ちょっとした組み合わせの工夫によってどちらの傾向の性能を持たせるかはある程度コントロールすることができそうだ。
したがって、あるシステムを聴いたときに、そのユニット、あるいはそのエンクロージャーだけを評して「ソフトタッチ」「ハイスピード」の判断をすることは早計だと言える。あくまでもその組み合わせの時にそうなるということだ。
ユニットを試聴している気でいると、どんなエンクロージャーに入っているかはあまり気にせずにユニットの評価をしてしまいがちだ。同じ試聴会がアンプの試聴会だったら、聴いた印象でアンプを評価するだろう。プレーヤーだったらプレーヤーの評価を。
結局全ては部屋の状態も含めてあらゆる組み合わせによって再生されたものを聴いている。スピーカーユニットはどんなエンクロージャーに入っているか、エンクロージャーはどんなユニットが入っているかによって傾向が真逆になることだってある。(真逆は言い過ぎか?)
「ソフトタッチ」とは何なのかを考える中で、ふとそのようなことも思った。閑話休題。
ソフトタッチを狙うには?
ざっくり言うと、ユニットに対して、大きめのホーン(スロートの断面積が大きい)あるいはカットオフが高い(広がり係数/広がり率が大きい)場合は「ソフトタッチ」の傾向に振れる。ただし良い加減にしないと締まりの不足した低音になりやすい。
極端に右肩上がりの特性のユニットの場合は「ソフトタッチ」にはなりにくい。こうしたユニットはユニットそれ自体がハイスピードでダイナミックと評される傾向がある。ただし「右肩上がりでないユニットはハイスピードでダイナミックでない」とは必ずしも言えないのが最近の傾向。近年の Fostex の FEシリーズはエンクロージャー次第でどちらにも振れるような気がする。(とはいえ相対的な話であり、ウーハーとソフトドームのようなソフトさはもちろんない)
ちなみに、最も強調して「ソフトタッチ」という言葉が使われていたのは D-6 だ。以下のように設計方針が説明してある。
「高能率高耐入力、ハードでシャープでダイナミックなハイスピードサウンド、というのがバックロードホーンの一般的なイメージになっているが、必ずしもそれだけではなく、対照的なキャラクターのバックロードも作れる、ということを証明するために設計した」
使用するユニットも候補の中から、ソフトタッチのユニットとしてCoral 8A-70が選ばれている。
エンクロージャーについても「ゆったりとした鳴り方を考えての設計」と書かれており、「8A-70 以外のユニットにも使える」とある。ユニット、エンクロージャーともにソフトタッチの組み合わせだが、他のいわゆる「ハイスピード系」のユニットをソフトタッチ方向で使うことも想定されているわけだ。
「ソフトタッチ」がユニット要因なのか、エンクロージャー要因なのかはケースバイケース。どのような傾向をどのように狙うのか、それぞれのバランスを考慮しながら判断していくことになる。
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