先日の D-102mkII での試聴に引き続き、今回は最も人気のモデルでもあり注目度も高いと思われる D-101S(スーパースワン)による FE108NS を試聴する。
スピーカーユニットの試聴はなかなか難しい。同じエンクロージャーで異なるユニットを試聴した場合、実際にはエンクロージャーの形状(設計)や調整の状態が影響しているにもかかわらず、「ユニットを比較している」という前提でいると、あらゆる違いをユニットの違いだと錯覚してしまうことがある。今回 FE108NS を D-101S に入れて試聴するにあたり FE108-Sol と比較しながら試聴したのだが、その錯覚を起こしかけてしまった。
FE108-Sol との比較
D101-S のエンクロージャーは FE108-Sol 用にチューニングしてある状態のままネック部を FE108NS を搭載した別のネック部にすげ替えて試聴した。
FE108NS は FE108-Sol と比較すると高域における突き抜けるような爽快感は少なく大人しめの音調だ。ここは程度や内容の差こそあれ FE108EΣと比較した時と似た印象である。言い方を変えれば「美音」ではあるが人によっては物足りないと感じることもありそうだ。
低域は FE108NS では少し締まりが不足しているように感じる。ここは限定品のパワーに分があるところだろう。本来であればエンクロージャーの設計を見直すことでもう少し締めたいところだが、スーパースワンでの使用を前提とするならばそうもいかない。チューニング次第でなんとかなる範囲ではあろうか。チューニングを施して気になる部分を解消することはできても同時にポジティブな部分も後退することになるので難しい。
具体的な違い
低音の沈み込み、全体の奥行き感(前後の表現)、表現のダイナミズムなどについては FE108-Sol が大幅に上回る。FE108NS が優れていると感じた点は FE108-Sol ではギリギリ破綻してしまうような刺激的な高音が鳴り響いたときに破綻しなかったことだ。
しかし前述のとおりこれをもって「ユニットの比較」とするのはあまりに早計だ。この結果はあくまでも個別具体的なケース。つまり FE108-Sol 用に調整されたスーパースワンのこの個体における結果である。ここで感じた事柄がユニット本来の違い(能力の限界)であると判断することはできない。高音での破綻だって FE108-Sol のまま破綻しないようにすることだってできるのだ。
FE108NS が D-101S では活きないポイント
「活きるポイント」ではなく「活きないポイント」なのが何ともネガティブであるが仕方ない。最も気になるのはスーパースワンの大きなホーンを制御できていないように感じる点だ。低音に締まりがなく余計な音も感じられる。このことが全帯域に影響しており、結果として前述のような印象になっていたように思われる。
フルレンジを試聴する時、低音と中高音それぞれの印象について原因と結果もそれぞれ別々に分けて考えがちだ。「低音は主にエンクロージャーとのマッチング、中高音はユニットの個性」のように。低音に問題有りと感じた時はエンクロージャーの再設計や低音を中心としたエンクロージャーの調整。中高音に問題ありと判断したときはユニットの交換や中高音を中心としたエンクロージャーの調整。このようなアプローチで解決することを考えがちということである。
かつて定期的に開催していたワークショップにおいて解決方法は必ずしもそうではないということを何度も経験してきた。サブウーハーを適切に追加することで中高域の聴こえ方が変わるように、あるいはスーパーツィーターを適切に追加することで低域の聴こえ方までも変わるように、バックロードホーンにおいても低音の出方を調整することによって中高域の聴こえ方が驚くほど変化する体験を何度もしてきた。
一聴して中高音の張りや奥行、細かい音の聴こえ方などに問題があったしても、それがイコール「ユニットの能力不足」ということにはならない。エンクロージャーとのアンマッチ(あるいは調整不足)が原因で低音の締まりやホーンからの余計な音といった点に問題があったとき、中高域の張りや抜け感、前後表現(奥行)が不足しているように感じられることもあるのだ。
そのようなことが原因ではないかと仮説を立て、エンクロージャー(ホーン)が影響しにくい状態で両者を比較することでその仮説を実証することを試みた。スーパースワンのネックだけの状態でそれぞれのユニットを試聴するのである。「実証」というほど科学的アプローチではないが。
ネックによる試聴で中高域の評価が逆転する
試聴に使用しているスーパースワンはネック&ヘッド部とボディ部を分離することができる。ボディからネック&ボディ部を抜き、平坦な面において事実上密閉型の状態とし、エンクロージャー(ホーン部)とのアンマッチな状態を軽減した状態での試聴を試みる。
楽器の鳴り方によっては若干耳につくことがある FE108-Sol の高域。かならずしも FE108-Sol に問題があるわけではないのだろうが、このような音源も FE108NS では綺麗に鳴る。FE108-Sol で聴いたボーカルで若干乾いたように聴こえるところが FE108NS では潤いを感じることができる。これらは好みの範疇であり、これらをネガティブに言い換えれば「元気がない」「トランジェント不足」という解釈もできる。それでもこの試聴状態での聴きやすさや品の良さは FE108NS の特長と言えるだろう。もちろん FE108-Sol の方が好みという人がいても全くおかしくはない類いの違いではある。
スーパースワンで試聴したときに FE108NS では物足りないとして感じた中域の「張り」や前後表現(奥行感)、立体感はこの状態の試聴では FE108-Sol とほとんど差がない。スーパースワンでの試聴ではこれらの点に関しては FE108-Sol の独壇場であったがネックだけでの試聴ではその点における差はほとんど無いことがわかる。逆に言えばば FE108-Sol には大きなホーンを駆動していても中高域での表現力が落ちないという能力が備わっており、その点に関しては FE108NS は太刀打ちできないということなのだろう。
D-101S の設計とこの個体の調整状態は FE108NS には合っていない。低音に締まりがなくホーンからも余計な響きが出てくる。能力以上の大きなホーンを動かすことによって中高域の実力が発揮できない。そこにホーンからの不必要な響きも加わり、全帯域において表現力が落ちるという悪循環になっているのだろう。
限定品とは別の方向性だと考えよう
ユニット単体での評価は別としてスーパースワンを基準に考えた場合、FE108-Sol から FE108NS に交換するメリットは少ないように思われる。FE108NS 用に調整を施せば、より良くなることは間違いないけれども FE108-Sol 用によく調整されたスーパースワンを上回るようにすることは難しいかもしれない。(かなり大胆に手を加えればできるかもしれないがそれはもはやスーパースワンではないだろう)
FE108NS の良さを引き出すのであれば、それ用に設計されたエンクロージャーが良さそうだ。とはいえ本機のマニュアルに掲載された若干小ぶりな作例でスーパースワンに対抗することは難しい。小ぶりのエンクロージャーには当然良い面もあるのだが、同じような方向性で対抗するには別のアプローチが必要である。ではどのようなものが最適なのか? 実際に設計/制作して検証してみたい。