Fostex FE108NS を長岡式 D-102mkII で聴く

2020年9月、かなり以前から発売の予告がなされていたモデル Fostex FE108NS および FE208NS がついに発売。10cmフルレンジ FE108NS の方から試聴を行ってみた。まずは長岡式では珍しいブックシェルフ型バックロードホーン D-102mkII による試聴から。

もともとは D-102 というモデルが FE106Σ 向けのブックシェルフ型バックロードとして発表されている。 FE106Σ は角形のダイカストフレームなので問題ないが、円形のフレームに変更されて以降の FE108Σ(数字の末尾が「8」のシリーズ)ではフレームがはみ出してしまう。そこでマイナーチェンジされたのが “mkII” である。パーツ寸法に少し違いがあるものの、本質的には同じとみてよい。

2019年3月にエクスペリエンスでは「ブックシェルフ型バックロードに挑戦」というイベントを開催している。この際に制作したのが この D-102mkII であり、当初は FE108EΣ を使用した。この時点で既に FE168NS が発売されており、FE108NS もいずれ発売されることを見越してこのエンクロージャーを制作した背景がある。それから1年半。ついに本来の目的の FE108NS で鳴らすことができる。

イベント開催時の告知用カット

前述のイベントを開催するにあたり D-102mkII では様々な試聴や分析を試みた。クセの出やすい帯域とその対処法やツィーターの追加による変化など様々な実験を行なって準備し、当日披露した。エンクロージャー自体は完成後1年半以上が経過しており、組み立て直後にありがちなエンクロージャーのクセはすでに解消されている。

一聴してクセの少ない素直な音がする

D-102mkII に FE108NS を入れて試聴してみる。高域のクセは FE108EΣ と比較するとほとんど感じられない。これをクセと言ってしまうと若干語弊があるかもしれないが、言い方を変えれば FE108EΣ には高域に独特の「突き抜ける感じ」が聴こえることがある。この独特なキャラクターが特長でもあり、高域の解像感に繋がる。ただこれを踏まえて中低域までを含めた全帯域のバランスをとるのはなかなかに難しい。使いこなしには一定の経験値が必要だ。それに比べれば FE108NS の使いこなしは比較的容易だと思われ、初めてバックロードホーンを作る方にも比較的受け入れられやすい音の傾向を持っている。

それでも Fostex の FE系ユニットの音に慣れていない人にとっては刺激の強い音だろう。そう感じたときは箱側の調整で少し大人しめに補正し、慣れてきたら少しずつ補正量を減らしていくと良い。(「ヘンな音に慣れろ」と言っているわけでありません)

D-102mkII のホーンをきっちりと鳴らす力

フロア型のように十分な開口サイズを持つバックロードホーンと比較すると D-102mkII は若干低音のレベルが低い傾向がある。FE108NS は FE108EΣ と比較すると低域から高域にかけてのレベルの上昇が少なく相対的に低音の量を感じやすくなっており、D-102mkII で聴く限りは低音に不足感はない。レンジでは及ばないものの、量感に関しては FE108-Sol 搭載のスーパースワンに迫る部分もあると感じたほど。FE108NS と D-102mkII は非常に相性が良いというのが最初の印象だ。

FE108NS のスペック上の能率は 87dB。 これまでのバックロード用10cmフルレンジと比較すると数字上では低めである。バックロード専用とは銘打たれていない FE103NV でも 88.5dB であることを考えると疑問に感じる方がいらしてもおかしくない。私自身この数字を見る限りでは疑問に感じるところはあったものの、聴いたところでの不満は特に感じない。FE108-Sol(90dB) と同じ環境で測定してみても不思議なことに音圧差は殆んどなかった。(Sound Meter App で簡易的に測定。公式値の測定方法とは全く異なる)原因は不明であるが、スペックに記載される SPL にそこまでとらわれることはないように思う。

FE108NS は D-102MkII に搭載された状態でも FE108EΣ と比較すると前述のとおり中高域にかけての突き抜けるような感じは少ない。従ってそこに価値を求める方にとっては FE108NS は大人し過ぎるであろう。

個人的にはこの状態でバックロードホーンならではの全域にかけてのスピード感がありながら、ストイック過ぎない低音の量感と質感、滑らかで品のある中高音が全体でバランスしており、素晴らしい性能であると感じる。

以上が D-102mkII を用いての FE108NS の印象だ。少なくともこのようなポテンシャルがあるということがわかったわけだが、この後に試聴した D-101S(スーパースワン)での試聴ではそこまで順調な結果とはいかなかった。そこは次回のレポートにて。

T96A の追加

スーパースワンでの試聴結果はそれだけでかなりの分量になるので次回に譲るとして、まずは FE108NS を D-102mkII に入れたまま、同時に発売された T96A を追加してみることにした。T96A は以前限定発売された T96A-RE のマイナーチェンジモデルともいえる製品で、小型のフルレンジに加えやすい特徴を備えたホーンツィーターである。

ホーンツィーターは音圧が 100dB を超えるモデルが多い。20cm フルレンジのように 100dB に迫る音圧を持ったものをバックロードホーンに入れれば、システムとしての音圧は 100dB を上回ることもある。しかし小口径フルレンジではどんなに頑張っても音圧は 90dB 台半ばであり、100dB を超えるようなスーパーツィーターをコンデンサ1個で繋ごうとすると極めて小さな容量のものを使用することになる。「200kHz, -6dB/oct」などといった初心者からするとゼロが1個(あるいは2個)多いのでは? というような計算値が出てくるので混乱が起きる。

一方 T96A の音圧はスペックでは 96dB であり、この手の他のホーンツィーターと比較するとかなり抑え気味だ。このことが功を奏し、フルレンジ、とくに小口径フルレンジとの組み合わせがスムーズになる。

そうはいっても今回は小さな値のコンデンサでの聴こえ方が好印象であった。はじめは 0.33μF で試聴してみたが少し音が大きい。続いて試聴した 0.22μF で良好と感じた。

D-102mkII + FE108NS の組み合わせに T96A を追加したときの音場感や表現力の変化は圧倒的だ。小口径フルレンジは測定上は高域がかなりのところまで観測されてはいるけれど「わかっちゃいるけど分割振動…」とあらためて思ってしまう。

T96A は FE108NS はもちろん FE108-Sol などの小口径フルレンジへの追加がお勧めできる。20cm フルレンジ(FE208NS)によるバックロードホーンとの組み合わせも聴いたことがあるがこれもなかなか良かった。品のある音は Sol 系振動板との相性が良さそうだ。FE-NS シリーズの「NS」とは「New Sol」の意味であるそうだから、NSシリーズの振動板の鳴りとの相性は全般的に良さそうだ。一方で EΣ系などの音には少し品があり過ぎるかもしれない。これらには T90A などの方が合うだろう。もちろんお好みによる。

というわけで D-102mkII を使用した FE108NS と T96A の試聴レポートは以上で、次回は D-101S(スーパースワン)による試聴となる。

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