FE208NS をハシビロコウで使う

 炭山アキラ氏設計の Fostex FE208-Sol 用エンクロージャー「ハシビロコウ」は同氏ならではの超ハイスピード、ハイトランジェントのバックロードホーンだ。(サウンドのインプレッションは別稿の「Fostex FE208-Sol の真髄を「ハシビロコウ」で聴く」に詳しい)

 とあるお客様から、イベントでハシビロコウのサウンドを体験し忘れらない、是非ハシビロコウを自室で使ってみたいとご相談を受け、弊社で製作することになった。とはいえ今となっては FE208-Sol は簡単には入手できない。決してベストではないが、代用品としてレギュラーモデルの FE208EΣFE208NS を使用することになる。FE206NV も不可能ではないが、前述の2モデルが入手できる中、わざわざ選択するメリットは大きくないだろう。
 FE208NS 用としてはハシビロコウよりも若干大きい「FE208NS 立方体ヘッドのバックロードホーン」を私自身で専用に設計しているが、今回は炭山氏のモデルに感銘を受けてとのことなので、あくまでもハシビロコウを使うことが前提となる。

EΣ? NS? どちらにするか?

 EΣ シリーズの FE208EΣ は一見して他のスピーカーユニットとは違う。HP形状と呼ばれる独特な稜線を持った振動板とセンターキャップが特徴。音は鮮烈。中高域にかけて突き抜けるようなサウンドだ。
 一方の FE-NS シリーズは EΣ シリーズよりも 20年近く新しい設計だ。こちらは新世代の設計とも言えるが外観はカーブドコーンとサブコーンが組み合わされた昔ながらのものだ。FE-NS シリーズは限定品の FE208-Sol よりも新しい設計で、NS は New-Sol の意だ。”Sol” の名を冠したシリーズは二層抄紙が特徴。粗め繊維を基層として強度を確保しつつ、細かい繊維の表層は音速/繊細さを備える。二種類の異なる特徴を持ったパルプを二層に抄き上げた振動板である。(フルレンジのもう一翼である FF シリーズでいち早く採用されている)
 こちらは「突き抜ける」部分については若干抑えられ、中高域にかけての繊細さ、美しさを特徴としている。ハトメレスである点も Sol よりも新しい。ここは優劣ではなく、お好みなのでどちらを選択するのかはユーザー次第だが、ハシビロコウの特徴を突き詰めていくのであれば EΣ なのかもしれない。今回はそれぞれの特徴を含めてご案内したところ、結果的には FE208NS が選択されることになった。極端な方向性よりはバランスを重視した格好だ。

FE208NS とハシビロコウの組み合わせ

 完成したエンクロージャーをユーザーのお宅に運び込み、新品の FE208NS を装着する。例によってお客様と同じタイミングで初めての音出しを聴く緊張感を味わう。
 炭山氏のオリジナルのハシビロコウは吸音材が使われていない。ヘッド内には平行面の反射を軽減する意図もあって2面(天板と側板の一方)に補強の木片が貼り付けられる設計となっている。ここでもお客様と相談して、鋭さを少しだけ緩和するためにヘッド部にのみ吸音材を配置した。これは後になっていつでも取り外すことが可能だ。「鋭さ」と書いたがこれはあくまでも主観的表現だ。人によっては高域の解像感になくてはならない部分であるし、人によっては聴き疲れする原因にもなり得る。今回はお客様のお好みを勘案して後者の対策として施した。
 FE208NS を使用したバックロードホーンは、手前味噌ながら(今回は私の設計したモデルではないが)一度も変な音がしたことはなく全て成功している。成功どころか全て大成功と言っても良いくらいのパフォーマンスを見せている。今回のハシビロコウもこれまでと同様、ユニットの特長が存分に発揮された素晴らしいサウンドを初っ端から聴かせてくれた。
 それほど広い部屋ではないし、ユーザーのお好みもそこまで極端な鮮烈サウンドというわけではない(普通のスピーカーからすれば十分 “鮮烈” であるのだが)ので、結果的にはユニットの選択、吸音材の配置ともにお好みにはまったと思う。
 品位が極めて高く、低域から中高域にかけてキレの良いサウンドが飛び出してくる。一般のユーザーには FE208-Sol よりも FE208NS との組合せの方がむしろ程よいバランスなのではないかとすら思えた。(ただし今回のユーザーは真空管アンプをお使いだ。単純に一般化できるインプレッションでないことは付け加えておきたい。)

 なおハシビロコウは公開されている図面を参考に製作する場合、少々判断が難しい箇所がある。今回製作にあたっては炭山氏ご本人に直接確認した上で製作したので、今後ご自身で製作される方は当方にお尋ねいただければ、当方からもアドバイスが可能だ。

T925A を加えて試聴

 最後に炭山氏も組み合わせておられるホーンツィーター Fostex T925A を組み合わせて試聴してみる。ホーンツィーターを加えることでシステム全体のクオリティが向上することはわかっているので、試聴用にあらかじめ持ち込んでいたのだ。ツィーターの追加によって、再生音はより立体的になる。その場の雰囲気、空気感を表現する力が一気に向上するのがわかる。これはユーザーの方にとっては意外だったようで、「ちょっと試聴」では済まなくなってしまった様子が伺える。(押し売りのようですみません)
 フルレンジユーザーがホーンツィーターを組合せた状態の音を聴いた後に「やっぱりいらない」となるケースはあまりなく、多くの場合何らかのモデルを導入することになる。今回は導入した場合の変化がどうなるものかだけはひとまず体験していただくことができた。

広くない部屋でも

 トータルとして FE208NS + ハシビロコウはなかなかのクオリティであった。今回は7.5 畳間程度の空間だ。部屋が広くないからといって何も考えずに「小口径にする」というのは少し待って頂きたい。20cm クラスのユニットでなければ表現できない、味わうことができない世界は必ずあるものなので、お好みがそのような方向なのであれば、検討してみるのが良い。もちろん逆に小口径でないと味わえないような世界もある。お好みがハッキリしているのであれば、「部屋」よりも、まずそのそのお好みに合わせて考えてみた方が良い結果が得られることもある。そういう意味では FE208NS は使いやすいユニットのように思える。大型のバックロードホーンに入れて比較的近距離で聴いても、十分に楽しめるスピーカーユニットなのかもしれない。

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