Fostex FE208-Sol の真髄を「ハシビロコウ」で聴く

Stereo誌 2017年12月号、2018年1月号 で紹介されている 炭山アキラ氏による大型の鳥形バックロードホーン「ハシビロコウ」を聴いてきた。使用しているスピーカーユニットは Fostex の FE208-Sol と T925A。 T925A は Arizona Capacitors の 0.33μF を介して接続されている。ハシビロコウは現在炭山氏ご本人宅のレファレンスシステムとなっている。今回はそのオリジナルとも言えるまさにその個体を炭山氏宅にて聴かせて頂いた。
さらに、ハシビロコウが運び込まれるまでメインシステムとして使用されており、現在もセッティングしてある 4way のマルチシステムも合わせて聴かせて頂く。

ウォームアップ 一瞬で完了

初っ端から「ハシビロコウ」を聴く。アンプは常時電源ONとのことなので、ウォームアップは必要ないもののスピーカーの方はそこそこは動かすことが必要だ。聴き始めの1〜2分はホーン独特の余韻が感じられたがすぐにウォーミングアップ完了。2〜3分も経過するとクセのようなものはほとんど感じられなくなった。中長期的なエージングとは別のウォーミングアップも音には影響するので、試聴時には気を付けなければならない。耳の肥えた人ほど最初の一瞬でいろんなことが分かってしまいすぐに判断を下せてしまうから注意が必要だ。

ハイスピードと心地良さの両立

最初に聴かせて頂いたのは『ザ・ダイアログ ウィズ バズ 猪俣猛/荒川康男』。圧倒的な高域から低域にかけてのスピード感とスケール感。これだ。これが 20cm FE のバックロードホーンだ。ここ数年の FE のモデルは以前と比較すると音に突っ張ったところが無くなってだいぶ「聴きやすい方向」になってきた。昔からのファンからは「大人し過ぎる」との声も聞こえる。そのようなユニットの特性を活かすためバックロードホーンのチューニングも全体的にマイルドなものが増えてきて、世間で耳にするバックロードサウンドもどこか大人しい。美しく鳴り響き、クセも少ない分「ガツン!」とくる要素は少ない。

炭山氏宅で聴く「ハシビロコウ」は FE208-Sol ならではの中高域にかけての美しさを残しつつも「大人しい」とか「マイルド」といった要素は皆無だ。とにかくハイスピード/ハイトランジェント。しかもこれが全帯域に渡ってのことだから凄まじい。それでありながらうるさかったり、音が刺さったりするような過度な激しさもなく、音楽が心地よいのだから凄い。

「最近の FE は大人しい」と判断された方は、それらのモデルをどのような状態で聴いたのかをもう一度振り返ってみてほしい。昔のやんちゃなFE用にチューニングされた箱で聴いていないだろうか? あるいは大人しめに聴かせる箱に入れたもので聴いていないだろうか? 昔ながらの純粋な長岡式の直系とも言える炭山式バックロードでは、しっかりと「FEしている」。

吸音材不使用

この「ハシビロコウ」は吸音材が使われていない。近年のバックロードホーンで吸音材不使用ということはほとんどない。ユニットとエンクロージャーがマッチしていれば、吸音材無しでもここまで鳴るのかと、大先輩に対して大変失礼ではあるのだが関心してしまった。吸音材不使用という事実がここまでの生々しさを表出する大切な要素なのだろう。その弊害が全く感じられないかと言えばそのようなことはないのだが、その弊害を除去することで失われるものの方が多いとなれば、その選択は誤りではない。

FE168EΣを中心に据えた 4way

まずは1曲「ハシビロコウ」で聴いた後に、4way の方も聴かせていただく。4 way もユニットは全て Fostex で、上から順番に FT7RP / <EN15> /  FT48D / <EN15> / FE168EΣ / <逆ホーン> / <Bass Channel Divider> / FW208N ×2 / <ダブルバスレフ > となっている。(< >内はフィルターまたはエンクロージャー)

ウーハー用のアンプこそ Accuphase だが、その他は安価なミニアンプであることには驚かされる。チャンネルデバイダーも本格的なものではなく、Fostex EN15 や Bass Channel Divider など安価なものばかり。それでこのサウンドだ。ハイエンドとは一体何なのかということを考えさせられる。ハイエンドそれぞれの機器に良さがあることは百も承知だが「安物では絶対ダメ」という先入観がある人には是非体験して頂きたいサウンドである。

この4ウェイ。マルチウェイにしてはフルレンジに近いような音でトランジェントは良好。FE168EΣ(ミッドバス)の下を切らずに、逆ホーンとなっているところがポイントであろうか。ミッドバスを通常どおり密閉で使って、下を切ってしまうと、あのような良さは出にくいかもしれない。試しにウーハーの音を切って聴かせて頂いた。当然ながら低音の量感は一気に無くなるが、質の高い気持ちの良い音で鳴る。大変素直な音で雑味が一切ない。

強いて言えば、ダブルバスレフの FW208N (2発)のスピード感とミッドバス以上のスピード感が合わないところが若干あるだろうか。普通のスピーカーであればこれは完全に許容範囲だが、1曲だけとは言え「ハシビロコウ」を聴いた後でのこのシステムなので、必要以上に気になってしまうところはあるだろう。

コンセプトは異なるがアクティブサブウーハーなどを試すとスピードと量感が両立するかもしれない。なお低音の量感はハシビロコウよりもある。ひととおり 4way システムを聴いた後、再びハシビロコウを聴かせてもらう。

音場表現の多彩さに驚く

ハシビロコウを聴いて特に凄みを感じたのは歌とアコーディオンの姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンの「最高」という曲だ。程よい距離にピタッと定まるボーカル。ほどよく響くアコーディオンの伴奏。重なってくるコーラス。さらに加わるバンドサウンドのスケール感。この手の曲がこんな感じに聴くことができるのはこのスピーカーだけだろう。録音したご本人たちもこの音でご自身の曲を聴いたら仰天するのではないか?

その他にもジャズ(『夜来風雨の声/伊藤志宏』)、オーケストラ(『レスピーギ:交響詩「ローマの祭り」/ジョアン・ファレッタ指揮、バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団』)、テクノ系(『ex/cuse_me/Technoboys Pulcraft Green-Fund』)などの曲をひと通り鑑賞した。こんな表現が正しいのかどうかわからないが、このスピーカーの「音のサイズ感の表現」は凄まじい。ジャズではトリオジャズの密室的なまとまり感。オーケストラではステージ全体に広がるスケール感。このように、小さくまとまっているところは小さく、広大に広がる音源は広大に。そのコントラストが素晴らしい。だから1曲の中にこれらの要素が次々に登場してくる前述の「最高」では「音」を「楽しむ」その感覚がまさに「最高!」となる。

このところは綺麗系のチューニングばかり聴いてきた。久々に聴くゴリゴリのハイスピードサウンドはやはり気持ちが良い。一方でここまでハイスピードな方向に振られたサウンドは好みの別れるところだろう。ソフトを選ぶということもあると思う。そうは言っても不得手なソフトはかつてのこの手のバックロードのイメージからするとかなり少なくなり、このスピーカーの許容範囲はかなり広いと感じた。

ここまでのサウンドを聴く機会は少なくなってきており、それを体験することができたのは非常に貴重であった。うちの音ももう少し締めてやってもいいかも…