FE208NS 立方体ヘッドのバックロードホーン

Fostex FE208NS 用 立方体のヘッド部を持ったバックロードを納品

 先日設計して【大型の20cmバックロードホーンを設計】で簡単に説明した FE208NS 用のエンクロージャーの制作が完了。いよいよ納品の日を迎えた。背後の壁に寄せて設置できるよう開口は前に。スロートとなるネック部は垂直に立てると全高が 1.5m ほどになってしまうため、水平方向になっている。いろいろ工夫した結果この形となった。設置面積は 60cm × 60cm の 3600㎠。ホーン長は約 3.4m。お客様のリスニングルームのソファの高さなども考慮した完全カスタム設計だ。
特にバックロードの場合、先に寸法が決まるとその寸法に収めるのには苦労する。しかし今回は十分大きなサイズの中での調整だったため比較的スムーズに設計は進んだ。

ホーンの fc は 16.5Hz。もともとこの周辺の数値で設定していたものを外径寸法に合わせこんだ結果この数値に落ち着いている。

fc 16.5Hz とその周辺のカーブ。そして本機の実際の値。

 8〜10畳ほどの空間で大型のバックロードを使おうとしたとき「部屋が広くないから小型でないと」というのは一理ある。しかしデメリットを超えるメリットをユーザーが得られると判断すればお勧めすることもある。その条件の中でできる限りお好みに沿ったものができ上がるように設計するわけだ。このようにセオリーと相反するお勧めをすることやお客様のお好みに合わせた音作りをすることは、メールや電話で言葉を交わすだけでは難しい。同じ空間を共有して同じ音を聴き、お客様が感じたことを細かくヒアリングする必要がある。「いい音」という絶対的なものがあってそれを目指すのであればこのような作業は必要ない。個々の求めるものや使用する環境が多用であるからこそ必要なプロセスである。

20cm フルレンジの大型バックロードならではの迫力。 それでいて繊細。

 全体のフォルムは炭山アキラ氏設計のハシビロコウに似ている。設計値や構造はゼロから計算・検討しているのでだいぶ異なる。2ヶ月ほど前に炭山氏ご本人のお宅でハシビロコウを聴かせて頂いたことを踏まえての印象は、やはり設計者によって音のテイストは全く異なるなということ。 スピーカーユニットがハシビロコウは FE208-Sol 、今回は FE208NS という違いはあるもののそれ以上の違いを感じた。
 同じ FE208NS を使用した別のロングホーンタイプのバックロードの方がどちらかと言えばハシビロコウ(=長岡サウンド?)に近かった。今回はそれよりはもう少し穏やかだ。今回もホーンのカットオフはかなり低い。背後や両サイドの壁とは近接して設置されることになるため、量感についてはあまり気にせずに低域方向のレンジの広さを優先している。

https://www.xperience.jp/news/20201110/

 吸音材はほとんど使用していない。ヘッド部(空気室)のユニット背後に軽めに配置しただけでホーン部の吸音材はゼロだ。お客様の部屋はどちらかと言えばデッド気味であることもあり、全体としてはこれくらいでちょうど良い。使い続ければヘッド部の吸音材も必要なくなるかもしれない。

 いつも感じることだが、設計/制作後のスピーカーの音を初めて出す時(今回もユニットはお客様支給だったため当然そうなる)にお客様と一緒 というのはなかなかに緊張する。まずは自分が聴いて納得することが必要。そして次にお客様が満足するかどうか。この機会が一瞬にして訪れる。
 今回も音を出してすぐに問題ないことがわかる。まずはここで一安心。バックロードの場合、アコースティック系のソースは多少スピーカーに問題があっても良く聴こえてしまうことがあるので、すぐにテクノ系の全く異なるテイストの音楽も鳴らしてもらう。これも問題がない。バランス良好。レンジも問題なし。キツ過ぎず、ゆる過ぎず、ほどよいサウンドが飛び出してくる。(成功した)バックロードでなければなかなか味わえない鋭く立ち上がり、しっかり収束する自然な低音がきちんと鳴る。今回は高級スピーカーを売却されての導入ということでプレッシャーもあったがお客様にもご満足頂けたようだ。

サイドからみるとネック部の構造がよくわかる。少し変わったフォルム。

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