Fostex Premium Craft W160A-HR & T250A を検証する ③

フロントダクトとリアダクトを比較する

6.5” 2way Project でのエンクロージャーを検討するフェーズでは、フロントダクトとリアダクトの比較も行った。最終的に試作エンクロージャーの3台目でリアダクトに決定。これは大きめ(20ℓ)のエンクロージャーでリアダクトとしたときに当初目指していた「音場の再生」というゴールに最も合致していたからだ。エンクロージャーはもちろんユニットの開発もそのゴールに合わせて行われている。

ポートの検討はシミュレーションだけでなくいろいろなパターンを実際に検討して行われた

ただ、もう少し小さめ(15ℓ)のエンクロージャーで、フロントダクトとした場合でも決して楽しめないわけではない。「音像の再現」とか「音を浴びるように聴きたい」というような場合はこちらの方が適している。

例えばロックなどを浴びるように聴きたいときはフロントダクトが良い。公開プロジェクトのときもフロントダクトの方がマッチしている曲がいくつかあった。その後、ショールームに来店されたお客様がロックのソフトを多数持ち込んで試聴されたことがあった。その時はフロントダクトで試聴したのだが、それが驚くほどマッチしいており、お客様も私も大満足したことがあった。感激してフォステクスの技術者にもその時の様子や聴いた曲のリストをお知らしたほどだ。

設置できる環境によっても事情は異なる。背後の壁からそれほど距離が取れなかったり、壁の環境が思わしくないような場合もリアダクトは使いにくい。聴く曲やそれらの曲をどのように楽しみたいか、設置する環境はどうかなどによっても選択は変わってくる。

ダクトの違いを中心に試聴

試聴ディスクのうち「元ちとせ」や「Ritchie Blackmore」では フロントダクトのときに音がガツんと前にきて気持ち良く聴くことができた。特に「Ritchie Blackmore」は明らかにフロントダクト(15ℓ)のときの方が楽しく聴ける。リアダクトで聴いたときはむしろ物足りなさを感じたほどだ。音場はキレイに再生できているが、この音楽は音場をキレイに再生して楽しむような音楽ではないだろう(もちろんお好み次第ではあるが)。これらの曲を試聴すると「同じユニットでここまで違うのか」とまで感じる。

エンクロージャーの状態に適したセッティング

フロントダクトの場合は、リスニングポジションに向けて内振りにするとフロントダクトの特長がより活きた音になる。内振り角度は12〜13° である。逆に音場再生をねらうリアダクトの場合は 2〜3°程度の内振り角度がちょうど良いようだ。
試聴会のように全員がセンターで聴くことができないときに 12~13°の内振り角ではリスニングポジションは極端に狭くなる。フロントダクトの良さを感じていただきたいとき、試聴会という場はなかなか厳しい環境だと言える。
なおこれらの試聴は全てツィーターとウーハーの中間点を基準に、左右のスピーカーの距離 1,980mm/床からの高さ 880mm/リスニングポイントまでの距離 約2,100mm で行っている。

同じ曲を異なる状態(ダクトのフロント/リア、内振り角度)で試聴

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番, 第5番(スドビン/ミネソタ管/ヴァンスカ)から tr.6 (第5番 第3楽章)を聴く

15ℓのフロントダクトを内振り角度強め(12~13°)
まずは15ℓ(青箱1)のフロントダクトを内振り角を強めにして聴いてみた。開発者曰く「オーケストラが突進して来る」ような感じだ。指揮者の位置で聴いているイメージだろうか。この感じが好きな人もいるだろう。

内振り角度を 2〜3° にしてみる
打ち振り角度を広げてみる。今度はリスニングポジションの両サイドを音が通り抜けていくような感じになる。イメージ通りなのだが、確かにそのように聴こえる。いわゆる「中抜け」まではいかないが、力強くセンターに「ガツん」とくる感じを体験した後だと特にそのような印象になる。

角度を広げたまま リアダクトにしてみる
次に角度はそのまま開き気味(内振り角度 2〜3°)にしてリアダクトを聴いてみる。(フロントダクトをスポンジで塞いで、リアダクトを塞いでいたスポンジを取り外す)
漠然とした印象ではあるが「音のいい席に移動した感じ」がする。ステージ全体を見渡せるようになった。音場再生に適したリアダクトのときは内振りの角度を浅くしたほうが、リアダクトの特長である「音場再生」の効果をより高めることができるようだ。逆に音像を再現するのに適したフロントダクトの場合はスピーカーの軸をリスニングポジションの方向に振った方がその特長を活かすことができる。前ダクトと後ろダクトでこれほど感じ方が変わってしまう。それぞれの音楽に向き不向きがあるというよりも、性格の違いと言えるかもしれない。

「ユニットを試聴する」ことが目的の場合、試聴する音楽と相性のよくない状態(ダクトやセッティング)で試聴してしまうと「こんなものか」と思ってしまう可能性がある。聴く人の好みや聴く曲をお伺いした後に、試聴するエンクロージャー(フロントダクトか? リアダクトか?、あるいはエンクロージャーの内容積など)の状態やセッティング(壁との距離や内振り角)を決めて聴いて頂ければ、かなりお好みに近い状態でお聴きいただけるだろう。

エクスペリエンス・スピーカー・ファクトリーのホームスタジオには青箱2がある。(2020年11月現在)青箱2はフロントダクトとリアダクトの両方を試聴することができるので、W160A-HR + T250A の特長を正しく把握するためには是非ご利用頂きたい。

※エクスペリエンス・スピーカー・ファクトリーではお電話やメールオンラインによるご相談もお受けしています。お気軽にご連絡ください。

青箱1(左) と 比較用の T250D + FW168HR の2way(右)

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