「低音の不満」の原因は?

「低音が物足りない」「低音が不足している」「低音に不満がある」ということでのお問い合わせは今も昔も代表的なものだ。ただ正直申し上げると、一言「低音が物足りないからどうすれば良いですか?」と尋ねられても回答のしようがない。極端な話これが「スピーカーユニットをエンクロージャーに入れずに音を出したところ低音が不足しています。どうしたら良いですか?」という質問であれば回答できるのだが、普通にエンクロージャーに入れている場合はもう一段も二段も上のレベルの話である。

 多くの人はスピーカーに原因があるという認識で、ユニット交換やネットワーク交換、エンクロージャーの変更、サブウーハーの追加といった手段に関するアドバイスを求めてお尋ねになられる。

量の違いと質の違い

 私自身がフルレンジ絡みの案件を扱うことが多いため、質問の中で多いと感じるのはフルレンジユーザーがウーハーを使用したマルチウェイシステムと切り替え試聴するなどして低音の量感に不足を感じるケースだ。フォステクスのフルレンジなどは特に、低域のダンピングが効いており、いわゆる「標準」として指定されているエンクロージャー(厳密には「標準」ではない。現在は「作例」という位置付けである)に入れた場合はどうしてもそう感じることが多くなる。フォステクスのフルレンジの特長はダンピングの効いた低音と抜けの良い中高音にある。作例のエンクロージャーはそのような特長を活かすものとなっているため、低音の量感を感じさせるために少し山を作るようなギミックを凝らすようなことはない。ストイックとも言えるその低音感は聴きようによっては単なる「低音不足」だ。

 ここで気をつけなくてはならないのは比較試聴の落とし穴だ。例えばウーハーを用いた 2way スピーカーとフルレンジスピーカーのように性格の異なるシステムを比較するときは気をつける必要がある。

 適切に設計され調整されたフルレンジはボーカルの抜けが良く、透明感があって非常に美しい。これを先に聴きいてその直後に 2way に切り替えると、ボーカルの抜けが悪くくぐもったように聴こえてしまうことがある。

 逆に 2way を聴きながらフルレンジに切り替えた場合、歌い手の身体全体に響くような音が薄く感じられ、声の艶感も足りず、潤い不足でカサついた音に感じることがある。

 フルレンジではエレキベースのような持続的な低音は圧倒的に量感不足に感じられることがある一方で、ジャズベースのピチカートなどはスピード感があり、かつ弾けるような低音感が素晴らしい。その状態で 2way に切るかえると締まりが不足、ボワッとした低音に不満を感じてしまうこともある。

 これが逆だとまた印象が異なる。たっぷりとして躍動感がある低音がフルレンジに切り替えると急に細身で突き刺さるような低音に聴こえてしまうのだ。

 以下がこれらをまとめた「例」だ。あくまでも「例」なので全のケースでこうなるわけではないことはもちろんだがこのようなことがあるということは知っておいてもよい。同じ音源を異なる順序で聴いた時(チャカチャカと瞬時に切り替えるということではない)の感じ方の違いの例として参考にして頂きたい。

音源の例\試聴順フルレンジ → 2way2way → フルレンジ
ボーカル抜けの良い透明感と美しさ→くぐもった印象深みと潤いのある声→艶感がなくカサついた音
エレキベース量感不足で不安定→十分な量感と安定感十分な量感と安定感→量感不足で不安定
ジャズベースのピチカートスピード感があり弾ける低音→ダブついた重くるしい低音たっぷりとして躍動感のある低音→細身で突き刺さるような低音

 個人的には短い時間でチャカチャカとセレクターを切り替えて試聴することは「差」はよくわかるが、本質的にどこがどのように良いのか/悪いのかを正確に判断する手段としては適さないと考えている。色々な曲をある程度の時間をかけて聴き、他のスピーカーを聴く時には同じ場所にセッティングし直して、またじっくりと聴きなおすという方法を採ることが多い。もちろん判断したいポイントによっては切り替え試聴が有効なこともあるだろう。私自身もその方法を採ることはある。

部屋の影響

部屋の影響もまた無視できない。定在波の存在や部屋の吸音や反射が再生音に影響することはほとんどの方が承知している。ところが、これらについて「この部屋の定在はどうだ」「この部屋の吸音/反射はこうだ」という認識はしても、同じ室内でもセッティング位置や聴く位置によって相対的に変化することについては無頓着であることが多い。「低音の量が足りない」原因が、感じたい低音がたまたまリスニングポジションにおいては定在波の影響で音圧が極端に低下しているだけだということもある。これが原因ではユニット交換やエンクロージャー交換ではどうこうすることもできない。

 スピーカー自体には問題がなく、リスニングポジションを少し前に移動するだけ解決してしまうこともあるので、結果的にはそれでよかったということもあるが、通常はリスニングポジションやスピーカーの設置位置を気軽に変えられるケースはそう多くはないので根深い問題ではある。

 室内におけるこのような現象に気がつかないケースとして、次のようなことが散見される。

同じ曲ばかり聴いて判断している

 同じ曲の同じポイントばかりを繰り返し試聴していると、たまたまその曲の該当する周波数(低音の聴きどころ)においてどうだったかということになってしまう。特定の箇所だけにとらわれてスピーカー側をいじるというのはお勧めできない。たまたまその周波数周辺のにおける再生状態が良いだけのその曲(のその箇所)に特化した状態になってしまう。

サイン波を耳で聞いて判断している

 特定の曲どころか、サイン波を聴いている場合はさらに極端になる。「テスト CD の50Hzが聴こえない」ということを訴えてこられる方もいらっしゃる。サイン波の場合は定在波の影響がさらにピンポイントになってくるので、これを用いて(しかも耳で聴いて)判断するというのはやめた方が良い。そのような方には「それはやめた方が良い」と率直に申し上げている。精神衛生上も良くない。

 等ラウドネス曲線のこともある。1kHz 以下については周波数が下がれば下がるほど人間の耳は感度が下がっていくので、聴感で「同じ大きさ」なのと「実際に同じ大きさ」なのでは何十dBもズレがある。テスト CD などを耳て聴いて感覚で音の大きさを揃えた場合、それは明らかなローブーストになる。そのようなことを踏まえて聴くのであれば良いのだがそうでなければ混乱するだけなので、サイン波を耳で聴いて「低音がーーー」などというのはやめた方が良い。

 逆にサイン波を用いて部屋の影響を体感するのは参考になる。たとえば 50Hz のサイン波を流しながら部屋の中を移動してみてほしい。場所によって音圧が大きくことなったり小さくなったりすることを実感できる。同じ部屋の中でこれだけ音圧が違うということは、低音の過剰/不足がスピーカーだけに依存しているわけではないことを知る良いきっかけになる。「ケーブルが」「ベースボードが」「インシュレーターが」… という以前にまず考えることがあることを知ってほしい。(もちろんその上でさまざまなアクセサリー類を上手に使うことは意味があるが、解決できない問題もある)

全ては原因を特定してから

 これらを踏まえて原因を特定(推測)し、自分自身が何を求めているのかをまずは明確にする必要がある。全てのひとが「量がたっぷりでゆったりとした低音」を「良い低音」と考えているわけではない。人によっては「量はそこそこでも締まりのある低音」を「良い低音」と認識することがある。

 私の場合はお客様のお好みによってどちらの低音も作ることになる。個人的な嗜好は気分によってどちらを求めるのかが変わるのだが、あまりにも制動が効かずに量だけたっぷりの低質な音は好まない。ただ、そういう音を好まれる方だっているのだ。(その方にとって、そうした音は質が低いという認識ではない)

 原因が特定(推測)できるとそれに向けたアプローチが考えられるようになる。字面だけは同じ「低音に不満がある」という問題を解決するのに、数多くあるアプローチの中から何が適切なのかを個別具体的に検討できるようになる。エンクロージャーに手を加えるのか、ユニットを交換するのか、サブウーハーを導入するのか、セッティングを見直すのか といったことである。

 人によっては自分自身がどのような点が不満でどのような状態を求めているのか自体を認識していないこともある。「よくわからないけれども現状には何となく満足できない」という状態だ。その場合は不満な点や求めている状態を探すところからお手伝いすることになる。自分は何が不満なのか、何を求めているかなどということはネットで探しても出てこない。そういう時はプロを頼ってみても良いのではないだろうか。

エクスペリエンス・スピーカー・ファクトリー | オーダーメイドスピーカーの設計・制作&販売/店舗やリビングの音響デザイン/放送局や研究期間向けスピーカー開発/メーカー向け開発援助