Fostex のフルレンジスピーカーユニットの代表的なシリーズに FEシリーズ と FFシリーズ がある。
FE シリーズにはそこから派生した FE-EΣ シリーズと FE-NS シリーズがあり、いずれもバックロードホーン向けユニットとしてラインアップされている。今回は FE シリーズの中でも「本筋」とも言える現行のシリーズ「FE-NV」を取り上げる。
FE シリーズは最初のシリーズからマイナーチェンジを繰り返して現在のモデルに至る。一方 FF シリーズはかつて存在した FF-K や FF-N といったシリーズから現行の FF-WK シリーズにモデルチェンジした際に方向性が変わり、バスレフ型向けとして仕様が大きく見直された。現行品はかつての FF シリーズとは流れの異なる新しいシリーズとして立ち上がったモデルとみて良い。現行 FF-WK シリーズの発売時期は2011年なのでまもなく発売10周年となる。
FE-NVシリーズの特徴
元来より FE シリーズは軽い振動系に強力なマグネットを搭載しているのが特徴だ。明るく軽快な音調で、高域にかけての抜けや繊細さを感じることができる。
エンクロージャーの工夫によってその特徴的な中高域にマッチする低音を加えることになるのだが、加え方によっては中高域だけが「悪目立ち」するようなケースもあり、巷のレビューではそのような音が否定的に評価されることもある。
適切に設計/調整されたエンクロージャーを使用することによって、中高域の特長を活かしながら低域の質も高いバランスのとれたシステムに仕上げることが可能だ。
フルレンジでも振動系の質量をあげれば単体での低音再生帯域は低域方向に拡大する。(もちろんそこだけではない)FE シリーズも振動系を含めた全体のバランスを調整すれば音圧周波数特性はそこまで右肩上がりにならずにもっと平坦になるだろう。しかしそれを行うことで、上述したこのシリーズの特長は大きく減退することになる。モデルチェンジを重ねても軽量な振動系という特徴を守り続けるのは、この独特な中高域を好むファンが一部に根強く存在するからだ。フォステクスのラインアップの中でも最も長く継続する伝統的なシリーズである。なお FE-En から FE-NV とモデルチェンジした際に使い易さは大幅に向上した。
※ FE-En から FE-NV へのモデルチェンジに関しては以下の記事でも触れています。興味のある方はどうぞ。
FF-WKシリーズの特徴
FF-WK シリーズは他ブランドのユニットと比較すれば軽量な振動系に強力マグネットの組み合わせといえる。FE シリーズと比較した場合は中庸な音調と言え、大変使いやすく、オーソドックスなバスレフ型に入れることで全体的にバランスのとれたシステムが手軽に完成する。
大きめのエンクロージャーに入れて設計/調整を行えばローブースト気味の特性を持たせることもできる。FE シリーズが丁寧に設計/調整をして初めて特長を活かしたバランスにすることができるのに比べて、FF は比較的簡単にバランスをとることができる。
FF-WK シリーズに初めて採用されたのが2層抄紙コーンだ。その後 FEシリーズの限定品「FE-Sol」シリーズにも採用されて好評であった「2層抄紙」の技術は2011年、既にレギュラーユニットに採用されていた。「2層抄紙」とは振動板の基層(裏側)に長繊維の材料を用いて剛性と適度な内部損失を確保し、表層に短繊維の材料を用いて伝播速度を確保するという振動板の製法だ。この FF-WK シリーズでは基層に長繊維の木材パルプ、表層にはケナフと備長炭パウダーが使われている。(以下の写真は FF-WK シリーズのマニュアルから)
これらの二つの層は貼り合わせられているのではなく、重ねて抄紙(紙を抄くこと)することで出来上がっているので、2層とは言ってもはっきりと層になっているのではなく、境目にはなだらかなグラデーションがある。
FF-WK シリーズは 2019年に FEシリーズが採用しはじめたポケットネックダンパーやハトメレスなども既に採用しており、アルミ合金のセンターキャップの形状もリッジドーム形状を採用して特定周波数での共振分散を図るなど、多くの新技術が投入されていた。FE-NV のモデルチェンジで投入された技術は 2011年にすでに FF-WK に投入されているものも多いのである。ただし新技術は PR のトピックにはなるが、それらと同等かそれ以上に大切なのは全体のバランス調整である。「この技術を投入したからこのような音になる」ということは一側面でしかなく、トータルでどのように調整するのかがユニット設計では最も大切なポイントとなる点は昔から変わらない。
FE-NV, FF-WK どちらを選択するか
突き抜けた中高音と鮮明な解像感を重視する場合には FE-NV を、そこまで極端な中高域は必要としない(好みではない)場合は FF-WK を選択するのがよい。いずれにしても、どちらも中高域は鮮やかな方向性を備えたスピーカーユニットなので両者の差は「程度の差」であると認識しておくのが良い。
もちろんエンクロージャーをどうするかということもポイントだ。すでにあるエンクロージャーに何かしらのフルレンジを取り付けるのであれば、お好み以前にエンクロージャーとのマッチングもポイントになってくるので、十分な吟味が必要である。
バックロードホーンに使うのであれば多くのケースで FE-NV がマッチすることの方が多い。ただこれも全般的に言えることであって、実際には個別具体的な検討が必要になる。FE か FF かというご質問は非常に多く、この記事を書く動機にもなった。しかし、一般論だけで判断しづらいのが難しいところで、実際にはユーザーのご経験やお好みによって説明の方法も(用いる表現も含めて)異なってくる。どうしても迷った場合には是非直接問い合わせてみて欲しい。(お問い合わせはこちらから)
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