Fostex のフルレンジスピーカーユニット FE-NV シリーズは 2019年7月に8cmと10cmの2モデルが、同年11月に12,16,20cm の3モデルが従来の FE-En シリーズからモデルチェンジして生まれた。シリーズ全てのモデルで音域のバランスが整えられ、聴きやすく、また使いやすくなっている。周波数特性ではそれほど大きな変化はないのだが、聴こえ方はかなり違う。
今回はこのシリーズの10cm口径 FE103NV と 12cm口径 FE126NV を中心とした試聴リクエストがあったので、その時の印象を中心にレポートする。
聴きやすく、使いやすくなった FE103NV
10cmモデルの FE103NV も前モデルで感じた強めの刺激音が無くなって聴きやすくなった。高域の刺激は「もう少しあってもいい」という方もおり、そこはお好みと言えそうだ。個人的には、まとまりも良く極めて聴きやすくなったこのモデルチェンジをポジティブな変化と捉えている。
余談だが FE-NV シリーズに見られる 1.5〜2kHz にあるディップは FEシリーズ特有のものだ。これは極限まで薄いエッジが採用されていることから起きるエッジの逆共振による。振動板ができるだけ反応良く動けるように採用されたこの布エッジ。他の材料を用いればディップを消すことはできるのだそうだ。しかしこのエッジでなければ FE 特有の音は出ないということで採用されている。振動板面積に対して相対的に面積が広くなる小口径モデルほどディッブは強く出る。測定環境(無限大バッフル)では特に強く出るが、背圧をかけて消すこともできる(圧を強くかけれかけるほど消えるというわけでもないようだ)。このあたりの詳細は Fostex の公式 note に詳しく書かれているので、他の変更点も含めて興味のある方はご覧になられると良い。
磁気回路見直しも、依然として力強い FE126NV
FE126NV は今回のシリーズのモデルチェンジで唯一磁気回路が見直された。マグネット径が FE126En よりも一回り小さくなり、高域と低域のバランスが変わっている。結果的にバスレフでも使い易くなり、バックロードホーンでも量感は出やすくなった。FE103NV とは低域の余裕が違う。10cm では「中高域が綺麗だから低域は我慢するか」と少々諦めに近いような思いを抱きがちだ。10cm も頑張れば低音の量感を出すことは可能だが、どうしても「頑張らせている」感が否めない。ところが FE126NV では10cm で「頑張り」を感じざるを得ない帯域に余裕を感じるのだ。量感とタイトさはトレードオフの関係になりがちだ。そこのところのバランスが絶妙なのが FE126NV の最大の特徴だと言えるかもしれない。バックロードで使うときもあまり大袈裟なホーンにせずに、軽くドライブできるくらいのホーンと組み合わせることで特色を出せそうな気がした。
このようにマグネットが小さくなったとは言え相変わらずの力強さは魅力だ。力強さと直接の関係はないが、EBP値も高い。前モデルのFE-Enシリーズ中では12cmの FE126En が値が最大だったが、FE-NV に変わっても FE126NV の値は最大で唯一の200超えだ。12cmはバランス的に高く出るのだろうか?
FE-NV Parameters | 83 | 103 | 126 | 166 | 206 |
---|---|---|---|---|---|
Nominal Imp.(Ω) | 8 | 8 | 8 | 8 | 8 |
Re(Ω) | 7.1 | 7.7 | 7.1 | 7.8 | 7.2 |
Le(mH) | 0.1 | 0.2 | 0.2 | 0.9 | 0.1 |
fs(Hz) | 149.7 | 91.8 | 79.1 | 49.6 | 44.7 |
Mms(g) | 1.4 | 2.5 | 3.0 | 7.0 | 15.2 |
Cms(mm/N) | 0.8 | 1.2 | 1.4 | 1.5 | 0.8 |
BL(N/A) | 3.24 | 4.7 | 5.3 | 8.7 | 10.7 |
Qms | 4.21 | 5.2 | 3.51 | 7.88 | 7.25 |
Qes | 0.96 | 0.5 | 0.37 | 0.28 | 0.27 |
Qts | 0.78 | 0.46 | 0.34 | 0.27 | 0.26 |
SPL(dB/m/w) | 87.5 | 88.5 | 92.0 | 94.0 | 96.0 |
a(mm) | 30.0 | 40.0 | 46.0 | 65.0 | 81.0 |
Vas(L) | 0.9 | 4.3 | 8.5 | 36.9 | 50.2 |
Weight(g) | 371 | 566 | 1,000 | 1,600 | 3,200 |
EBP | 155.9 | 183.6 | 213.8 | 177.1 | 165.5 |
Parameters | 83 | 103 | 126 | 166 | 266 |
なお、このようなパラメーター。話題にしておきながら言うのもなんだが、あまり振り回されてはいけない。ことバックロードに関しては 「Qts(Qo)が低ければ低いほど良い」というような論調も見られる。その様な傾向が全く無いわけではないがそれだけに固執してしまうと本質を見失う。例えば FE168NS の Qts は 0.39 だが、これをもって「バックロードホーンに向いていない」わけではない。ついでに言えばマグネットの「大きさ」だけで色々と判断するのも同様に本質的ではない。(カタログからも「マグネット質量」は消えつつある?)
FE126NV は狙い目か
FE103NV は標準的には 6ℓ 程度で使われる。大きめの 9ℓ くらいのエンクロージャーにするとだいぶスケール感が変わってくるのだが 9ℓ にもなると 12cm口径 が視野に入ってくる。FE103NV を大きめキャビで頑張らせるよりも FE126NV で余裕を持って再生するという選択肢が出てくるのである。とは言え FE126NV を FF125WK などのバスレフ専用モデルと同じサイズのバスレフで使うのは少し勿体無い気もする。さらに大きめのエンクロージャーで低めのレンジを稼げば…。となると今度は 16cm も視野に入ってきてしまうので堂々巡りなのだが、16cm となると今度は高域の方に問題が出てくることもある。(FEではあまり感じないかもしれないが)これらを考えると、FE126NV は低域の量感とタイトさ、そして十分な質の高域などあらゆる点でバランスの取れたユニットであるように思えてくる。
大きなエンクロージャーで使っても、バスレフでは全体的にハイ上がりな特性は解消できないだろうが、強力な磁気回路による引き締まったハイスピードな低音はそれを補って余りあるだろう。約15L ものエンクロージャーでチューニングも欲張った設計をしたにもかかわらず「成功した」という話も聞く。FE126NV を使いこなすことで、よくある10cmクラスのフルレンジシステムとは一味違う魅力を備えたバスレフモデルの定番が出来そうだ。
今回の試聴で感じたのはこれまで 10cm ユニットばかりを偏重し過ぎてきたのではないかということだ。もしかすると 12cm ユニットはかなり狙い目なのではないだろうか。12cmモデルを使用した過去のモデルを自身のものや長岡式のモデルなどから掘り返して更なる可能性を探ってみたい。
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