エンクロージャーキットが思っていた音と違う

2ヶ月ほど前に「よくあるご注文」というタイトルの記事の1節として書いた「キットが思っていた音と違う」を自分自身で読み返してみました。この内容をもう少しいろいろな方に読んで頂きたいと思い、一部加筆修正して独立/再掲することにしました。

キットが思っていた音と違う

市場にはたくさんのスピーカーボックス “キット” が存在します。キットを設計された方も当然、特定のユニット(あるいは複数かも)を用いて試行錯誤されています。ですからそんなに変な音にはならないはずなのですが「結果が思わしくない」というご相談を数多くいただきます。お客様に色々お尋ねするとこれにはいくつかの要因があるようです。

1. そもそも想定されているスピーカーユニットを使っていない

「同じ様なユニットだから良いか…」と、想定されているのとは異なるスピーカーユニットを使用していることが結構あります。これはキット販売側にもある程度責任の一端があることもあります。というのもユニット取付孔のサイズが同じで、同じ「バックロードホーン用」のユニットであれば「使用可能」として表記してしまうことがあるからです。表記されている「使用可能」ユニットを用いるのはまだ良い方で、口径だけが同じで仕様が想定と全く異なるものを使用してしまっている場合もあります。かなり特殊なウェブ上のレビューを参考にしてしまっていることもあります。

2. 内部の調整がキット設計者の意図と違う

これは指定された通りの吸音材を使用していなかったりすることによります。吸音材なら「まぁこれでも良いだろう」とわりと適当に使用してしまっています。吸音材についてはキットに付属していればまずはその通りにやってみて、問題がありそうならその問題を解決するためにどのようにするのかを筋道を立てながらやっていく必要があります。

吸音材の件は FE168NS 関連の記事で書いた内容が参考になるので以下に引用します。

吸音材は個別具体的な対応が必要
 吸音材については素材だけで語ることができず、リモートでのサポートは難しい。例えば「フェルト」と言っても原材料が実際はポリエステルだったり、商品名が「○○ウール」となっていても、それも原材料は同じポリエステルだったりする。本当は個別具体的な商品名で語らなければならないが、全ての商品を把握できる訳もない。
 一つの目安となるのは質量や密度だ。一言に「フェルト」といってもものによって密度が何倍も異なったりする。にもかかわらず単純に「フェルト10×10cm を 10mm 厚」などと表現しても種類が違うと実際には何倍もの量を使ってしまうこともあったりしてアドバイスとして成り立たない。質量と体積を計測してどのくらいの密度のものをどのくらいの量使うのかというところまで把握しておくことが必要だ。もちろん微妙な設置場所の違いによっても音は違ってくる。特にユニット周辺(小型の場合は特に)は音に与える影響が強いため気を遣っておきたい。

FE168NS を長岡式 D-164 で聴く(2020年9月9日)
3. 使用環境が特殊

大きなエンクロージャーを狭い部屋で使用していたり、リア開口のものを背面の壁にピッタリとつけて使用していたり、壁掛けで使っていたり… 使用環境やセッティングが特殊でキットに限らずどのようなスピーカーでも設計者の意図通りには鳴らないのではないかというケースも散見されます。このような環境が前提になっているようなときはこの環境用に合わせたものを考えなくてはなりません。一般的なキットで対応するのはなかなか難しいものがあります。ただ、手が加えやすいという点に関しては市販品よりもキットではあっても自作スピーカーの方が対応しやすいのかもしれません。

4. 求めている方向性が大きく異なる

そもそもそのキットが目指している音質とユーザーが求めている音質の間にズレがあることもあります。タイトでスピード感のある低音を目指して設計されたバックロードにウーハーのような量感のある低音を求めているようなケースが多いでしょうか。フルレンジの高音にツィーターのような滑らかで品のある音を求めすぎても程度によってはそれも難しいものがあります。

以上のような場合に満足しない要因をキットそのものの質に求めてしまうのは設計された方に非常に酷ではあるのですが、多くのユーザーさんは割とそういうスタンスで相談して来られます。多くのネット通販で販売されているキット屋さんたちに対して私が持っている最大のアドバンテージは、お客様と同じ時間と場所を共有して同じ音を聴き、その場で意見を共有できることです。これで上記の不満の要因は概ね理解することができます。完成したキットをお持ち込み(あるいは訪問試聴させて)頂ければ、不満の要因となっていると思われる部分を改善し、満足していただくことが可能になります。(根本的に解決が難しいこともありますが)

キットからの発展

そうした流れから「キットでこんないい音になるなら、もっといい外観で作ってもらいたい」ということになってご注文に至る。このようなケースもございます。前述のような過程を経ていますのでお客様のご要望の路線は私も理解しています。もともとのキットの状態にさらに(そのお客様にとっての)改善の要素を盛り込んで設計し、製作します。結果、そのお客様のお好みの音質でさらに外観も美しいスピーカーが出来上がることになるわけです。皆様からのご連絡をお待ちしております。