マウス(開口)部の調整
ヘッド部の調整が一段落したところでマウス(開口)部の調整に入る。ここから先はヘッド部にはウール(110×110mm)を配置した状態に固定している。もちろんヘッド部の調整状態が違えば開口部の最適な状態も異なるであろうし、部屋の状態(今回の実験はデッド気味な10畳の試聴室で行っている)によっても異なる。スーパースワンの開口部は背面にあることから、背面と背後の壁との距離やその壁の状態等によっても変わってくる。とにかく結果を左右する要因が多く存在することはこの類の検証においては常に留意してほしい。
天然ウール
スーパースワンの開口部の底面の面積はおよそ 162.5×125mm が2面ある。今回はその面を全面覆うことを標準に、片面だけを覆ってみたり、両面の奥だけ、手前だけ、など色々と試しているが、基本的には全面または左右いずれかの面に入手した状態の厚みのまま使用している。最初に試したのはヘッド部で採用したのと同じ天然ウールだ。
このウールを写真のように開口部底面に敷いてみる。これだけでかなり影響は大きくこれでは余韻までも吸い取ってしまう。残念ながらこの音であればこの部分の吸音材はない方が良い。
粗毛フェルト
粗毛フェルトは比較的バランス良く鳴る。ヘッド部に使用した時は中域だけをよく吸い、低域/高域には影響が少なかったのだが、開口部では中域、低域を程よく吸音してバランスを整えてくれた。個人的には低域への影響が若干不自然にも感じたのだが、設計者の評価は高い。この辺りは個人によって感じ方が違う部分もあるので、それぞれが感じたままに調整していってほしい。
DAISO 洗えるフェルト
洗えるフェルトもヘッドの時は中域を吸っており、粗毛フェルトと似た傾向を見せた。同様に開口部では良い結果が期待されたもののここではバランスを崩してしまった。通常のバックロードホーンではこの洗えるフェルトは開口部の調整に活躍することが多いのだが、今回のスーパースワンでは今ひとつの結果となった。「無し」の状態よりは若干改善する程度であろうか。
両者の良いポイントを併せ持った状態にできないかと、ここで粗毛フェルトと洗えるフェルトを重ねて使ってみる。全面に入れると全体的に吸い過ぎてしまったため、片面だけに配置する。こうすることで洗えるフェルトだけを使った場合よりも低域を吸うようになり、バランスは改善する。
DAISO キルト芯(ドミットタイプ)
ドミットも片面だけ敷いてみる。何も敷かない状態よりはかなり改善する。普段バックロードの開口部ではあまり使わない素材なのだが、今回は予想以上に良い方向に効いているのが実感できる。ドミットには表と裏があり、フワフワしている面とプレスされたようにかっちりとした面がある。上記の印象はフワフワ面を上にした時のもので、これを逆にすると良い効果が発揮できない。なお、今回開口部のいずれか一方だけに敷いた時はいずれも各チャンネルの内側に敷いている。外側が良いか/内側が良いかなどについてはそれぞれの環境で検証が必要だ。
ドミットのこの状態が今回の条件下では最も良いと感じられる調整状態であった。覆われている部分の面積を変えずに、162.5×125mm の吸音材を切断して 162.5×62.5mm ×2枚とし、左右それぞれの開口部の奥側/手前側など置く位置を変化させて試したものの、片側を1枚で覆う場合が最もバランスが良いと感じられた。ドミットは商品としては 800×750mm のサイズで販売されているので、ヘッド部にこれを使ったとしてもこれらの実験は全て1つの商品から切り出すことができる。100円ショップの品物1つでこれだけ試すことができるのでかなり効率は良い。
検証を終えて
最終的に以下の状態が当日の実験での最適な状態となった。(繰り返すが実験場所はデッド気味の部屋である)
- ヘッド部:天然ウール(110×110mm, 7mm厚)
- マウス(開口)部:DAISO キルト芯(ドミットタイプ)(162.5×125mm)
これはヘッド部の調整が終わった段階で既に感じていたことであるが、FE108SS-HP + D-101S は 10cm フルレンジによるバックロードホーンであることを忘れてしまうようなクオリティで鳴る。デッド気味な部屋であるので、余韻などは基本的にスピーカーからの出力に頼ることになるのだが、そこから得られる余韻も必要十分で心地よい。よく小口径のユニットの音としては「サイズ以上の低音の量感」といった表現を見聞きすることがあるが、「サイズの割に量が…」という側面だけではなく、「バックロードなのに質が…」という点においても優れたサウンドであった。バックロードホーン、とりわけ小口径のバックロードホーンは元気の良さだけで押し切るようなイメージがあったが、この組み合わせにはそれだけではない質感がある。
これはおそらくスーパースワンに限らない FE108SS-HP を用いたバックロードホーン全般に言えるだろうが(あるいは FE168SSHP にも言えるだろうか)、ユニット自体の音が整った傾向を持っているため、「奔放に鳴るサウンドを積極的に抑える」という使い方ではなく、「バランス良く整えていく」イメージで調整すると良いようだ。こうすることでこのユニットが持つ本来の力を余すところなく発揮することができるだろう。
FE108SS-HP を既存のユニットと交換して使うときは、そのままの状態でただ交換するのではなく、一度調整状態をリセットした上で使ってみてほしい。それがこのユニットを使いこなす上での一番の近道となるであろう。