開発されるウーハーは「W160A」?
(荒谷)今もラボラトリーシリーズというのがありますね? ウーハーで言えば W300AII(30cmウーハー)とか W400A-HR(40cmウーハー)などがあります。今回はこの流れでいうと「W160A」といったところでしょうか? となるとアルニコマグネットですか?
(乙訓)それも検討しています。アルニコだとどうしても価格の問題があるので、フェライトバージョンと2機種できればいいですね。「W160F」とか?
アルニコとフェライトの違い
(荒谷)なるほど。「アルニコとフェライトの違い」というテーマもトピックになりそうですね。以前お話されていましたが、マグネットの磁束がどうのといったこと以外にもドーナツ型のフェライトマグネットとドーナツ型でないアルニコマグネットでは、マグネットの素材そのものの違い以外の要素も絡んできますよね? ウーハーの場合はボイスコイルの後方に穴が開いた形状のものもあるので、振動板の後方の空気の抜けが違うことによる影響が大きそうです。
(乙訓)必ずしもアルニコが優れていてフェライトが劣っているということではありません。それぞれの特徴、それぞれの良さを活かしたユニット設計をしていきます。
磁束ということに関しては質量が小さくて最も強いのはネオジムなわけです。システムでいうとG1300MG(13cm ウーハーを搭載した2ウェイスピーカー) のツィーターがネオジムです。例えばフェライトマグネットで作ったツィーターをより強力にするためにはマグネットサイズを大きくしなければなりません。あのくらいのサイズの2ウェイでエンクロージャーのあの位置(エンクロージャー正面の上部)に質量の大きいものを配置することを考えると、重量バランスの悪さによる不安定さも考えなくてはなりません。試聴すると、重いフェライトをネオジムにしたことでフワッと軽やかな鳴りがしたんです。これは磁気性能がどうだとかいう問題だけではないわけですね。
これについても全てのケースでそうかというとそうではありません。その時はたまたまそうだったというわけです。 GX100Limited のときもそうでしたが。
(荒谷)ユニット単体の話にとどまらないということですね?
(乙訓)そうですね。システム全体としてどうすれば良いかと考えたときには必ずしも物量を投入すればいいということではないわけですね。重い方がいい部分、軽い方がいい部分がそれぞれあるわけです。
ウーハー振動板の素材と形状
(荒谷)その他に振動板の形状や素材も重要ですね?
(乙訓)そうですね。
(荒谷)今回は抄紙(紙)ですか? マグネシウムは無理?
(乙訓)いつかマグネシウムでということは考えたいですが、今回は抄紙でいきたいと考えています。
(荒谷)現行品の FW168HR(単品16cm ウーハー) や GR160(16cm ウーハー搭載の2ウェイシステム) が抄紙の 16cm ウーハーをつかっていましたが、これらがベースになりますか?
(乙訓)そうですね。旧モデルの FW168HP など HP/HR 形状*の振動板の恩恵である「高剛性」と「共振の分散」による素直で正確な音質をベースに、改良を加えてより高い音響性能を目指します。具体的には材料の見直し、処理の見直し、パルプ分布の最適化、質量の最適化など地道な項目ですね。
*HP/HR 形状:FOSTEXのスピーカーユニットで採用されている凹凸のある振動板の形状。軽さと剛性を両立させるため、共振を分散させるために開発された形状。
FW168HR + T250D の2way を試聴
(荒谷)ここでベースとなるユニットの一つである FW168HR を使った 2way を聴いてみましょう。こちらはいずれも現行品のモデルです。
♪ Ready To Love / Tuck & Patti / Taking The Long Way Home
♪ モナ・リザ / Vino Rosso / BASS & BASS
FOSTEX FW168HR
(荒谷)今回の2ウェイ開発にあたっては現行品である今聴いていただいた FW168HR もベースになるわけですが、乙訓さんからみて今回のプロジェクトでつくる2ウェイにおいてこのユニットに改善点のようなものはありそうですか?
(乙訓)そもそも FW168HR やその前身の FW168HP を開発した当初は RS-N2 などのモニタースピーカーの開発に主眼がおかれていました。そのあたりの影響はありますね。
もちろん今聴いていただいたとおりこのスピーカーがダメかと言えばそんなことはなかったと思います。ただ音楽観賞用としてはもっと上がありそうだなと。
低域の再現性、量ではなく質の部分でもっと実体感をもってそこで演奏しているように感じたい。ベースを持ってきてそこで演奏している様子を再現しようということではなくて、演奏している様子を思い浮かべられるような情景をリアルに再現したいということです。原音再生ということではないですね。
(荒谷)私もここ(スピーカーの真横, 会場の隅の方)で聴いていたのではっきりとはわからないですが、特に2曲目では量感は十分だと感じましたが一方で再現性という点についてはまだ上がありそうだなと。
(乙訓)これがベストではなさそうだなと。キャビネット、チューニング、ネットワーク という部分もありますけど、やはりまずはドライバーの見直しからですね。
ボイスコイルと振動板の接合部(アダプター)
(荒谷)FW168HR の特徴というとやはり最初に目がいくこのHR振動板ですよね? HR形状振動板の恩恵である「高剛性」と「共振の分散」による素直で正確な音質 という部分はそのままHR振動板を採用して引き継いでいくとして、パーツごとに見ていったときに他に見直していく点はありますか? 例えば振動板の材料は?
(乙訓)材料は見直します。今のものがベストがどうかを検証します。あとはアダプター(ボイスコイルと振動板の中継に使用している部品)の改良ですね。
(荒谷)ボイスコイルと振動板を接合するときに、通常のカーブドコーンの場合はそのまま接合できるのですが、HR振動板のように複雑な形状の場合はボイスコイル側の形状をそれに合わせた形状にしないと接合できません。ボビン(ボイスコイルを巻いている円筒状の部品)のフチを振動板に合わせた形状にカットしてあるものもありますね?
(乙訓)G2000a のミッドレンジはそうです。直付けです。
(荒谷)直付けでなくて中継する部品、アダプターを介して接合する場合もあるわけですが、FW168HR はアダプターを使用していますか?
(乙訓)使用しています。ただここで使っているアダプターは GX100BJ で採用したアダプターとは形状が違います。イメージで言うと、てのひらを「グー」にした時の形状のアダプターです。GX100BJ では「パー」の形状(開花形状)にしていて、ボイスコイル径よりも外側で振動板を押しています。GR160 の時にこの形状を開発しています。
ボイスコイル
(荒谷)ボイスコイルはどうですか?
(乙訓)見直します。ボイスコイル径は FW168HR の 35dia から 40dia に拡大して駆動力を向上させます。
ウーハーの場合は径が大きい方が駆動力は上がります。大きすぎてもだめなのですが。
(荒谷)「大きすぎる」で思い出したのですが、FW168HS とか前のモデルの FW168N は 50dia らしいですね?
(乙訓)これはこれらのモデルの起源である FW160 の設計当時からの踏襲です。現代と異なるアンプやソースを前提にすると当時としてはこのくらいが妥当だったということですね。
(荒谷)FW168HR の振動板形状ではセンターキャップはないですけれども、センターキャップの大きさによっても変わりますよね?
(乙訓)そうですね。キャップからも音はでていますから。大きさ、形状材質、接合位置、いろいろな要素で変化します。
(荒谷)今回はツィーターと繋げることを考えるとボイスコイル径もどこかにバランスする大きさがあるということですね?
(乙訓)今は大きさと駆動力の話でしたけれども、それだけではないです。ボビンにはボイスコイルを巻くわけですから、径を大きくしたときに、必要な幅のコイルを巻きつけるとどうなりますか?
(荒谷)重くなりますね。
(乙訓)巻き幅をしっかりとって、Xmag(プレート厚さとVCの巻き幅で決まる)をとろうとするとすごく重くなってしまいます。逆に巻き幅をそんなに取らなくてもいい場合にはコイル径を大きめにしてショートボイスコイルにしてしまうなんてこともあります。
(荒谷)つまり、今回は2ウェイで、おそらくツィーターは 25mm の純マグネシウム(=ハードドーム)になるでしょうから、それを想定すると 40dia くらいが適当であろうと?
(乙訓)検討の結果 40dia が適当だろうと考えました。このくらいが最もしっくりする大きさでした。「しっくり感」というと適当な感じがしますが結構重要な要素です。もちろん測定をして判断することも大切ですし、やっているわけですが、この「しっくり感」も判断する上では重要です。
エッジとダンパー
(荒谷)エッジはどうですか?
(乙訓)もっと前後にスムーズに動かしてあげることを考えると幅を広くしたいですね。
(荒谷)たしか GR160 のウーハーのエッジが FW168HR よりも広いですよね?
(乙訓)そうです。
(荒谷)あとはダンパーもありますね。FW168HR はタンジェンシャルダンパーが2重になっています。
(乙訓)今回は波(コルゲーション)ダンパーでいこうと考えています。動きやすさを重視します。この辺の物理的な動作の違いについては測定した結果をお見せできればと考えています。
(荒谷)今回はコルゲーションダンパーの方が適していると?
(乙訓)タンジェンシャルダンパーは初動は反応良く、徐々に制限がかかる形状です。技術としてはモニタースピーカー、即ち測定器からきたものですから、今回とは用途が違うわけですね。今回は正確な音が聴きたいということではなくて音楽鑑賞を楽しみたいということですから。かといって過剰に動かすわけではありません。
(荒谷)なるほど。詳細は次回のウーハーの回で詳しく聞かせてください。実際に音を聴くこともできそうですか?
(乙訓)聴くことができる予定です。