Fostex FE108 シリーズをスーパースワンで比較試聴する

Fostex FE108シリーズをスーパースワンで聴く

D-101S を使用した 10cmフルレンジの比較試聴リクエストがあった。いまだにスーパースワンは人気だ。1992年発表なのでもう少しで30年ではないか。この形、語り継がれる多くのレビューは否が応でも人々の好奇心をそそる。

わが試聴室のスーパースワンは普段 FE108-Sol が取り付けられ、それに合わせて調整が施してある。単純にユニットだけを交換すれば、FE108-Sol が最も良く鳴るのは目に見えている。

今回は3機種の比較リクエストだったので既に用意のある2つのエンクロージャーに加えて、サイズの異なるもう一つのエンクロージャーを制作し、それぞれのユニットの特徴が表れるように調整した。エンクロージャーといっても試聴機のスーパースワンはボディ部とネック部が外せるようになっているので、ネック部を交換することによる比較である。ボディ部の調整は共通とし、ネックより上の部分に調整を施す。 FE108-S 用と FE108-Sol 用は同サイズ。そのものの体積も大きい FE108ESII は若干大きめのヘッドとした。このユニットの発売当初はスーパースワン全体を 5% 拡大したものの製作記事もあったくらいなので、やはり大きめで調整してみたくなる。全て限定生産品で現在は入手困難なものばかりなのはご容赦頂きたい。

奥から FE108ESII, FE108-Sol, FE108-S

それぞれの違いが如実に

ソフトは主にお客様が持ち込んだものを使用した。今回はお客様が持ち込んだソフトのクオリティがどれも非常に高く、ユニットの差は明確に表れたと思う。

スーパースワンでの試聴ということもあり、全体的に長岡系ソフトのチョイスとなった。そうしたソフトには氏がご存命中にすでに発売されていた唯一のユニットである FE108-S が最もよくマッチしていたのはおそらく偶然ではない。そもそもスーパースワンのオリジナルユニットは FE108-S なのである。

実は使用したアンプもそれに拍車をかけるようなチョイスとなっているのだが、あまり横道に逸れてもいけないのでそれはひとまず置いておこう。

“Sylvie” / Sylvie Vartan, 主に Tr.1, 2 を試聴

最初に聴いたのは Sylvie Vartan の “Sylvie” から。フランスのシンガー、ヴァルタンは「バルタン星人」の名前の由来だそうだ。初代ウルトラマン 第2話の敵役としてバルタン星人が登場したのが1966年だからかなりのベテランである。

FE108-S ではボーカルや楽器が明瞭。音楽が迫ってくる。スピード感のある音が部屋中を満たす。これぞスーパースワンの音。 FE108ESII ではそれにさらに拍車をかけたような印象になる。同じ方向性をさらに突き詰めた感じとも言えようか。 一方の FE108-Sol はひたすら美しく鳴る。音楽が迫ってくるというよりは美しく鳴り響くといった風合いだ。

“Des pas Sous La Neige” / Joël Grare Tr.1 を試聴

次に聴いたのは Joël Grare のアルバム “Des pas Sous La Neige” から表題曲。ヒーリングミュージックのような感触。正直ヒーリングミュージックの類は苦手だ。(このアルバムがそのようなジャンルに分類されるかはわからないが、それっぽい感じはある)BGMとしてかけ流しておくのであればなんとも思わないのだが、音楽として聴き入るには退屈だと感じてしまう。このアルバムは一聴してヒーリングっぽい感触はあるが、音楽として心地よく鑑賞できる。コンセプトがわかりやすいからなのか。これみよがしに抽象的な感じがしないところが良い。

大量のカウベルで構成された独自の楽器が長い余韻を伴って奏でられる心地よい音楽。作曲と演奏はフランス出身のパーカッショニスト、ジョエル・グレア。2018年の作品。

FE108-S は程よいバランス。時折ガツンとくる耳に刺激的な高音をギリギリ過剰にならないところで納めている。FE108ESII では若干刺激的になり過ぎたところもあったか。この手の曲を再生するにはもう少し調整が必要かもしれない。おそらく調整不可能なレベルではないだろう。

一方 FE108-Sol では前の2モデルと比較するとカウベルの響きはかなり遠慮気味だ。前の2モデルと比較してしまうと、ベルをフェルトか何かで少しダンプしたようにも聞こえる。しかしこれは試聴の罠だろう。比較試聴は刺激的な音を聴いた後では、バランスの取れた綺麗な音に物足りなさを感じてしまうものである。辛い料理を先に口にしたあとに繊細な料理の味を判別するのが難しいように。ここは時間をおいた上で比較をせずにあらためて単独の試聴を試みたい。

『零戦』 Tr.2 およそ5分〜を試聴

有名な「零戦」も聴いた。飛行機の飛ぶ音を聴くという、「いかにも」なディスク。Tr.2 の5分過ぎからの音のリアリティは素晴らしい。バランス的には FE108-S だが、FE108ESII の図太い感じも捨てがたい。ここでは音楽を楽しむことを得意とするスピーカーを土俵に上げるのは遠慮しておこう。ここで比較してしまうと FE108-Sol は不利だ。比較相手が普通の 2way などであれば、話は違ってくるだろうが。

この感じはスーパースワンが最も得意とするところだろう。前後、上下、左右に音が飛ぶ。部屋の中を零戦が飛び回るという違和感。音場がリアルであるから尚更にその違和感が増す。しかも試聴室は外光が一切入らない。ここは目を閉じて青空を頭に思い浮かべながら聴いておこう。たまにはこの手のソフトも面白い。

『カメルーンのオペラ』(SACD) 主に Tr.4, 14 を試聴

そしてアナログ盤が有名な『カメルーンのオペラ』の SACD。アナログ盤には入っていないトラックを4曲追加して SACD 化された高音質盤だ。

ここでもそれぞれのユニットの傾向は変わらない。ディスクによっては FE108-S のバランスの良さが活きたり、FE108ESII の独特の図太さが魅力的だったりする。そして FE108-Sol はいつも綺麗だ。一歩下がって丁寧に音を描き出すイメージか。

長所を活かしてこそ

FE108-S や FE108ESII のキャラクターと比較すると、 FE108-Sol の魅力は他の2モデルの強烈なキャラクターの前に無力化されてしまう(「無力化」は大袈裟か…)。今回は3つのモデルを比較することがあらかじめわかっていたので、あえて FE108-Sol の調整は前2モデルに寄せて、多少は美しさが失われても力負けの印象を無くそうと挑んだ。しかし、それでも両者の差は大きい。やはりそのユニットの長所を活かしてこそだ。比較することで改めてそれを感じることができた。

もちろん FE108-Sol の特徴が活きるソフトでは FE108-Sol の独壇場だろう。ただその時のエンクロージャーは果たしてスーパースワンなのだろうか? スーパースワンは確かに素晴らしい。しかしユニットはスーパースワンというエンクロージャーの持ち味やそれが得意とするソフトの方向とは別の方向に進化している。エンクロージャーにもそろそろ新たなスタンダードが見えてきても良いのではないだろうかとも思う。あと半年で長岡氏が亡くなってから20年である。

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