Fostex AP25 をじっくり試聴する

 2022年5月、Fostex AP25 が発売され 【Fostex AP25 でフルレンジ+ホーンツィーターをデュアルモノで鳴らそう】という紹介記事を書いた。その後、ホームスタジオに試聴にお見えになったお客様や訪問先に持ち込んでお聴き頂くなどしたところ、それぞれの場でご好評をいただいている。そんな中、話題が一巡してきたところもあるので、よりじっくりと AP25 を試聴してデュアルモノ駆動の結果をレポートしてみたい。

 今回試聴に用いたスピーカーは Fostex FE83NV2 に同じく Fostex の限定ホーンツィーター T96A-SA を加えたシステム。レギュラーの8cmフルレンジに高級な限定ホーンツィーターを組み合わせるのはやや贅沢と言えるが、大変効果が高いので、今回はこれでいこうと思う。

まずは AP15mk2 を聴く

 AP25の試聴に入る前に比較対象としてAP15mk2 を聴いてみる。AP15mk2 とスピーカーを通常どおり結線し、ツィーターはスピーカーシステムのターミナルから信号を取る。ネットワークは 0.22μF のコンデンサーが1つ。これは前回の試聴の時に実験して適切であることを確認している。

 AP15mk2 で聴いてみても十分な解像感、クリアネス、低音のキレを備えている。実はこの組み合わせは、普段、自宅のリビングルームのシステムとして聴いているそのものである。普段聴いている音ではあるが、改めて試聴してみると、そのクオリティーの高さは特筆すべきものがある。

こちらのアナログ盤および同じアルバムのストリーミング音源を試聴

 ペギー・リーの声は、生々しく。当時の録音の雰囲気がとてもよく表現されている。小口径のフルレンジシステムなので、EDM系の低音は不足しがちになると考えていたが、低音が引き締まっていると多少量感が不足していても不足感を感じにくい。普段低音が膨らみ気味のスピーカーで聴いている人には不足に感じられるかもしれないが。一方で、普段から生の音に触れているような音楽関係の人には、この種の低音は人気が高い。この辺りはアンプの性能というよりはスピーカーの性能に強く依存する部分なのだが。

 クラシックでは交響曲や協奏曲の楽器の数が多い曲では、フルレンジの限界を全く感じないわけではない。それでも中高域の表現力は高く、低音の締まりも良いのであまり不満を感じない。

AP15mk2 を AP25 に交換する

 アンプを AP25 に交換して通常のステレオアンプとして使用してみる。一聴して音の実在感が増したように感じる。楽器の直接音だけではなく、その周囲にある空間までもリアルに見えてくるような感じだ。ただ、グレードアップの効果がこれだけの変化なら、正直「大満足!」というところまではいかない。駆動するのにもっとパワーを要するスピーカーであればもう少し変化は大きかったのかもしれないが。パワーに関してはAP15mk2 (15W)程度あれば軽量な高能率フルレンジ(今回は FE83NV2 )であればもう十分だ。

AP25 2台、フルレンジとホーンツィーターを別々に鳴らす(デュアルモノ)

 本命はこの使い方だ。すでにホームスタジオでもフルレンジ+ホーンツィーターの試聴ではレファレンスに近い存在となっているが、このシステムではどうか。

 接続は RCA(ピン)で2台の AP25 のそれぞれの L(Mono) に L信号と R信号を入力する。(R側の入力端子には何も接続しない)このように接続すると AP25 のスピーカー出力の L と R の両方から同じ信号が出力される。2台の AP25 それぞれが2つの出力端子を備えたモノラルアンプとして動作するわけだ。この信号の一方をフルレンジに、もう一方をコンデンサを介してホーンツィーターに接続する。

AP25 の背面端子

 LR合わせて4本のスピーカーユニットそれぞれに別々のアンプがあてがわれた状態となり、かつ、L と R は別筐体だ。AP25(その他の AP シリーズのアンプを含め)は電源は ACアダプタを使用するので、筐体は極小。かなり小型なモノラルアンプとなる。

 音は、AP15mk2 から AP25 に変化した時の印象の延長線上にある感じだが、今度の変化の度合いはかなり大きい。音の実在感はさらにアップし、中低音の締まりもさらに向上しているように聴こえる。

 ペギー・リーの歌う姿が浮かび上がるようで、音楽がよりリアルに展開する。音が心地良く、いつまでも聴いていられるような印象だ。

 全ての音楽について同様の変化がある。再生音の雰囲気が変わる。フルレンジにホーンツィーターを加えたときの効果を実感したことがある人は、その時に感じた変化に近い。その時の変化がよりハッキリと現れてくると言えば分かりやすいかもしれない。

 AP25 のデュアルモノ使いで懸念があるとすれば、上流にボリュームがないと不便ということだ。高級なプリアンプをあてがうのも何となく違う気がする。プリアプトのある DAC とか、ソースが限られているのであればフォステクスの PC100USB-HR2 などでも良い。入力信号をダイレクトに AP25 につなぐとしたら、音量を変えるごとに左右のチャンネルのボリュームをそれぞれ同じ位置に動かさなくてはならない。プレーヤー側のボリュームをタブレットなどでリモートで操作できるのであればこうした不便さは軽減される。

 ちなみに、今回の試聴では、ダイレクトに接続してしまった。ネットワーク上の音源はタブレット側でボリューム操作できるので問題ないし、アナログプレーヤーの場合はレコードをセットするために近くまで行かなくてはならないので、ボリュームを操作するのはそれほど苦にはならない。

 そんなちょっとした面倒臭さを差し引いたとしても、AP25 によるデュアルモノ再生には大きな魅力がある。フルレンジ+ホーンツィーターの組み合わせを楽しんでいる方には特にお勧めしたい使い方だ。サブシステムに導入したとしても、もしかしたらメインシステムにも… と思ってしまうかもしれない。

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