FE168NS を長岡式 D-164 で聴く

36年前のバックロードに2019年のユニットを

D-164 は 1984年に発表された長岡式バックロードホーンだ。Fostex FP163 向けに発表されたエンクロージャーで、空気室は8.5ℓ、スロート断面積 90㎠、マウス開口面積585㎠。比較的汎用性の高い設計になっており掲載誌では FE168Σ にも対応可能という説明がなされ、その後も 16cm バックロードホーン向けユニットのスパイラルホーンの定番として定着しているようだ。

今回は D-164 で使用することを前提に Fostex FE166NV か FE168NS のいずれかの購入で迷っておられたユーザーの方からご相談を受けた。それぞれの特長をご説明差し上げた結果 FE168NS を選択。15mm厚の板が標準のところを 18mm厚の板を使う前提で図面を引き直し、パイン集成材で制作されたとのこと。完成後も色々とご相談をお受けするうち、この組み合わせのシステムをぜひ聴いてみたくなり、お願いして訪問させていただくことになった。

バスレフ型の JBL STAGE A130 と比較すると低音の量感が不足しているとお感じとのこと。実際に聴かせていただくと STAGE A130 の方はリアダクトであるにもかかわらず後方の壁に近接して設置してあり、天井にも近い。低音はかなり強調されている。これと比べてしまうとバランスの良いスピーカーはもちろん、ローブースト気味のスピーカーでも低音が不足しているように感じてしまうかもしれない。

ガレージの壁に張り付くスパイラルホーン

この空間はガレージでもあるので、通常はスピーカーの前にバイクが置かれている。D-164 を床置きしてしまうとユニットがバイクに隠れてしまうことから、変則的に壁付けで設置されている。そのことを聞いたときは壁付けによる様々な弊害を懸念していたが、現場を拝見させていただくと、壁に取り付けてあること自体の弊害はほとんど皆無で、強固な壁に強固に設置されている。

室内はもともとライブな環境であったところに様々な反射物(これは音響用に意図的に設置したもの以外も含む)や吸音材が設置されていて、心地よい響きが保たれている。ガレージ内の至るところに様々な DIY の跡がある。特に入口のシャッターには様々な遮音、吸音、制振の工夫の跡があり、大変関心した。

低音の量感は十分/FE168NS と D-164 のマッチングは良好

D-164 を聴かせて頂いたところ低音は十分過ぎる程で量感もある。簡易的に測定してみると、リスニングポジションでは 50~80Hz 付近に台形の盛り上がりがある程だ。低音の量は不足どころかローブースト気味である。壁付けの設置でバッフル効果を利用した上での量感だが不自然な感じは少なく、質的にも十分だ。これは部屋に施された様々な工夫も相まっての効果であろう。

D-164 はユニットを正面に設置したときに開口は側面になる。Lch と Rch が左右対象であるため開口を外側に向けるか内側に向けるかをケースバイケースで判断することになる。両チャンネルの距離がとれない場合は必然的に外側設置ということになるが、左右の壁との距離によっては内側設置になることもある。これは実際に設置してみなければ分からない。

今回のユーザーさんは当初内側設置にしておられたが、最終的には外側設置で落ち着いたとのこと。聴いた限り外側設置で全く問題がないようだ。音場表現の点からも外側設置の方がごく自然な結果が得られるだろう。

このシステムを聴かせて頂く限り、ユニット(FE168NS)とエンクロージャー(D-164)のマッチングは問題ないことが分かる。16cm ユニットは「感覚的には」20cm のバックロードホーンと同じくらいのエンクロージャーが必要になる。(実際20cmはだいぶ大きいのだが感覚的には近いものがある)その点 D-164 は正面の壁にピッタリと寄せて使うことができるし、設置の仕方次第では壁をホーンの延長として利用することもできるので、狭めの部屋である程度のサイズのバックロードホーンを使いたい方にはお勧めできるものだ。

特に FE168NS はこれまでのバックロードホーンユニットにありがちだった、ともすれば「刺激的」とも言える高域の要素が少なく、美しく、穏やかに(あくまで比較論だが)鳴ってくれるため、バックロードホーンが初めてという方にも受け入れられやすいと思う。

そのようなユニットの特性やエンクロージャーの特徴もあり、システムのバランスはゴリゴリのバックロードサウンドというよりは、バックロードホーンの良さを持ちつつもごく普通のバスレフのエンクロージャーに寄っている。

「趣味の部屋」ならではの壁付けネットワーク

当初は低音不足/高域過多とお感じだったということで、バッフルステップ補正(そもそも補正の必要は無いほどバッフル面積は十分である)で中域以上を抑制する回路もお試しになられている。コイルと抵抗の値をプラグの差し換えによって何種類かから選択できるように正面の壁にネットワークボードが固定されており、ソースや気分次第で簡単に接続を変更することができる。使用しているツィーターのコンデンサの値や接続の有無もここで調整が可能。これは楽しい。まさに趣味の世界だ。

ユニットから出てくる中高音はFE168NSの穏やかさを考慮したとしてもさらに抑制的。これはフルレンジに入る回路をバイパスした(スルーの)状態でも同じだ。ここはお好み次第だが、空気室内の吸音材はもう少し工夫しても良いかもしれない。ユニット背面の吸音材は厚くし過ぎれば生気を失う。無くしてしまうと場合によっては高域が刺激的になり過ぎてしまうこともあり重要な調整ポイントだ。

吸音材は個別具体的な対応が必要

吸音材については素材だけで語ることができず、リモートでのサポートは難しい。例えば「フェルト」と言っても原材料が実際はポリエステルだったり、商品名が「○○ウール」となっていても、それも原材料は同じポリエステルだったりする。本当は個別具体的な商品名で語らなければならないが、全ての商品を把握できる訳もない。

一つの目安となるのは質量や密度だ。一言に「フェルト」といってもものによって密度が何倍も異なったりする。にもかかわらず単純に「フェルト10×10cm を 10mm 厚」などと表現しても種類が違うと実際には何倍もの量を使ってしまうこともあったりしてアドバイスとして成り立たない。質量と体積を計測してどのくらいの密度のものをどのくらいの量使うのかというところまで把握しておくことが必要だ。もちろん微妙な設置場所の違いによっても音は違ってくる。特にユニット周辺(小型の場合は特に)は音に与える影響が強いため気を遣っておきたい。

D-164 + FE168NS 空気室内の様子は気になるものの今回はそこには手をつけずにもっと鑑賞させていただくことにする

試聴と印象

基本的に自分の音源を持ち込んでの試聴よりも普段お客様が聴いている音源での印象を重視したい。ただ今回は偶然にも私が所有している音源と共通のものがリファレンスディスクとして(?)何枚か置いてあったので、そちらを中心に試聴させて頂いた。

『タルカス』エマーソン・レイク&パーマー(ELP)
中低域のボン付きが少し気になる。これは開口部を工夫することで軽減できることを確認した。このようなボン付きはバックロードホーンや共鳴管系のエンクロージャーで気になることがある。今回のようにエンクロージャーの開口への措置で改善できることもあれば、部屋の音響状態に少し手を加えるだけで改善することもある。リスニングポジション以外では気にならないようなこともあるので、手を打つにもまずはいろいろな方法で検証しておいた方が良い。全てスピーカー自体に原因を求めて色々と手を加える必要があるわけではない。

『ゲッツ/ジルベルト』スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト
非常に良い雰囲気で聴ける。中高域の鮮度や生々しさはユニットのポテンシャルからするともっといけるはずだが、音楽としての楽しさは十分味わえる。ほんわかした雰囲気のこの曲にはむしろこのくらいでも良いとも言える。これも中高域の鮮度が上がるとより生々しさが出てくるだろう。ヒステリックにならないギリギリのところまで鮮度を高めていくとゾクッとするようなボーカルが楽しめるはずだ。ツィーターの工夫でそこにさらに潤いも加えられれば最高。

その他にも Sophie Milman や King Gnu などをひとしきり聴かせて頂いたところで2時間ほどの時間が経過してしまった。今回お邪魔させて頂いたガレージ。なによりもこの秘密基地的な雰囲気が良い。ゆったりと趣味を楽しめる最高の空間だ。つい長居をしてしまったが、FE168NS の今までに聴いたことのないサウンドを楽しむことができて非常に満足でした。ありがとうございました。