「スーパーツィーターを加えるのは意味がない」その理由としてよく見聞きするのが次の2つです。
1つ目はメインスピーカーで20kHz(可聴帯域の上限)まで再生できているのだから、さらにスーパーツィーターを加えるのは意味がないというもの。そして2つ目は自分は高齢で、すでに10kHz以上は聴こえないといったものです。しかし、これらの理由だけでスーパーツィーターの意義を否定するのは、必ずしも正確ではありません。少なくとも一度は体験してから考えるのが良いように思います。今回は、こうした疑問に答えると同時に、スーパーツィーターを加えることの意味やアドオン接続のデメリットやその対策等についても考えてみたいと思います。
再生能力と再生品質は異なる
「メインスピーカーで20kHzまで再生できているから意味がない」これは人間の可聴帯域の上限とされる20kHzまでメインスピーカーが再生できるのであれば、それ以上の周波数を再生するスーパーツィーターは不要である、という考え方です。
しかし、メインスピーカーが20kHzまで再生できるとされていても、その周波数帯域における音の「質」が十分かどうかは別の問題です。特定のスピーカーが公称20kHzまで再生できても、その上限付近では出力が低下したり、歪みが増えたりすることがあります。特にフルレンジスピーカーの場合はその傾向が顕著です。
スーパーツィーターは、非常に軽量な振動板を持つため、高音域の立ち上がりや立ち下がりの応答性(トランジェント特性)に優れていることが多いです。これにより、音の輪郭がより鮮明になり、情報量が増加したように感じられることがあります。
単に音圧特性やスペックだけを見て判断するのは一旦やめておきましょう。

Fostex FE206NV2(20cmフルレンジ)の周波数特性。公称では18kHzまで再生。
超高周波成分の存在と影響
音楽には、20kHz付近、あるいはそれを超える超高周波成分が含まれていることがあります(特にハイレゾ音源の場合)。これらの超高周波成分は、直接は聴こえなくても、可聴帯域の音に影響を与える可能性があります。例えば、超高周波成分が可聴帯域の音の倍音構成を豊かにしたり、音場の広がりや空気感を表現したりするのに寄与すると言われています。
「聞こえる」と「感じる」は異なる
「自分は高齢で、すでに10kHz以上は聴こえないから意味がない」という意見を聞くこともあります。加齢とともに高音域の聴力が低下することは事実で、特に10kHz以上の音が聴き取りにくくなる人は多くいます。聴力の低下はなんと20歳を超えると少しずつ低下していくとも言われています。小学生向けのワークショップなどで、17kHzのサイン波を再生して聴こえるかどうかを尋ねると、小学生はほぼ全員が聴こえますが、その親世代になると、逆にほとんどが聴こえないのです。(スピーカーは軸外で、少し離れた場所という条件です)
そのような事情を踏まえ、聞こえない音を再生しても意味がない、という考え方です。
しかし、たとえ直接「音」として認識できなくても、超高周波成分は体に何らかの影響を与え、それが音の「質」や「雰囲気」として感じられる可能性が指摘されています。例えば、超音波は空気の伝搬特性に影響を与え、その結果として可聴域の音の響き方や広がり方に変化をもたらすという研究もあります。(「ハイパーソニック・エフェクト」の研究等)
倍音構造の豊かさ
楽器が発する音には、基音とその倍音(ハーモニクス)が含まれており、高次の倍音には、20kHzを超える成分が含まれることがあります。これらの倍音が不足すると、音の豊かさやリアリティが損なわれる可能性があります。直接聞こえなくても、倍音構造が補完されることで、より自然で心地よい音に感じられることがあります。ただCDの場合は記録される高域の上限は22.05kHzですし、アナログレコードも明確な限界はないものの、事実上の限界はCDと同等か若干劣るくらいです。そういう意味では、20kHzを超える云々ではなく、その付近の高域の再生を「いかに正確に行うか」という点が重要なのかもしれません。
「脳」が処理する情報
聴覚は単に耳で音を拾うだけでなく、脳がその情報を処理して意味を解釈します。超高周波成分が直接意識されなくても、脳がその情報を処理することで、音全体の印象や空間表現に影響を与える可能性が示唆されています。(これも「ハイパーソニック・エフェクト」の研究にて)
スーパーツィーターを加えることの実際のメリット
前述の点を踏まえると、聴こえるか、聴こえないかにかかわらず、スーパーツィーターを加えることで以下のようなメリットが期待されます。
- 音場感・空気感の改善:音の広がりや奥行きが増し、コンサートホールのような空間表現が向上すると言われます。
- 情報量の増加・解像度の向上 :微細な音のニュアンスや楽器の質感、録音されている空間の響きなどがより鮮明に聞こえることがあります。
- 音の透明感・見通しの良さ:音が濁らず、よりクリアで澄んだ印象になります。
- 倍音の再現性向上:楽器の持つ本来の音色や響きがより豊かに再現され、リアリティが増します。
- メインスピーカーの負担軽減:スーパーツィーターを追加することで、メインスピーカーのツィーターと超高域の帯域を分担させることができ、メインスピーカーのツィーターの負担を軽減し、より自然な再生に貢献する可能性があります。アドオン接続の場合はこのメリットは特にありません。
このような恩恵が得られる可能性がありますので、「メインスピーカーで20kHzまで再生できるから」「加齢で高音が聞こえないから」という理由だけで「スーパーツィーターは意味がない」と断じるのは早計と言えます。
聴覚やシステムの限界もありますが、スーパーツィーターは直接聞こえる音だけでなく、音全体の印象や空間表現、情報量、そして音の質感に影響を与える可能性を秘めています。
最終的には、実際に試聴してみて、ご自身が音質の向上を感じられるかどうか、そしてその向上に対して価値を見出せるかどうかが重要です。オーディオは個人の感性に大きく依存しますから、他人の意見だけでなく、ご自身の耳で確かめることをお勧めします。
足りない部分を補うという点においては、明らかに低音の量感不足の時にサブウーハー(スーパーウーハー)を追加するのと似た状況なのがスーパーツィーターの追加です。同じ観点からすると、高域が(量的に)不足していないのならば不要とも考えられます。しかし、実はサブウーハーでも、量的な側面だけではなく、質的な側面でのメリットを享受することができます。同様に、あるいはサブウーハーの場合以上に、スーパーツィーターについては量的な側面よりも質的な側面での寄与の割合が高いと言えます。
アドオン接続とその懸念点
スーパーツィーターの追加には「アドオン」という方法があります。「アドオン」とは、もとのシステムの高域にはフィルターを入れずに、そのまま高域(スーパーツィーター)を加えるだけのことをいいます。加える対象のスピーカーに高域のフィルターを入れた場合は「+1way」 となりますのでアドオンとは一応区別されることになります。サブ(スーパー)ウーハーを加える時に、元のスピーカーの低音をカットせずにそのまま追加するのと考え方は同じです。
アドオン接続した場合は元のスピーカーの高域と再生する音域が被ります。したがって、元のスピーカーの高域にはローパス(ハイカット)フィルターを入れるべきで、スーパーツィーターだけにフィルターを入れた状態で加えるのは、効果が得られるどころかマイナスの影響があるという考え方もあります。この意見は、複数のスピーカーユニットが同じ周波数帯域を再生することで生じる、以下の問題点を指摘しています。
干渉(インターフェアランス)
- 複数のスピーカーから同じ周波数の音が出ると、それぞれのスピーカーからの音波が互いに干渉し合います。
- 干渉によって、特定の周波数で音が強め合ったり(ピーク)、打ち消し合ったり(ディップ)する現象が発生します。
- この干渉は、リスニング位置やスピーカーの配置によって大きく変化するため、特定の場所では良く聞こえても、少し位置をずらすと音質が大きく変わってしまう「スイートスポットの狭さ」の原因になります。
- 結果として、滑らかで自然な周波数特性が得られにくく、不自然な音色や空間表現につながることがあります。
位相(フェーズ)の乱れ
- メインスピーカーのツィーターとスーパーツィーターの位置関係がわずかにずれるだけでも、音波がリスナーの耳に到達するタイミング(位相)に差が生じます。
- 位相のずれは、音の定位感をぼやかしたり、音像を不安定にさせたりする原因になります。
- 特に、両方のスピーカーユニットが同じ周波数帯域を再生している「クロスオーバー領域」では、位相のずれが顕著になり、音の繋がりが悪く感じられることがあります。
以上のような干渉や位相の乱れを防ぐために、元のスピーカーのツィーターにもローパスフィルター(LPF)を入れるべきだという考え方があります。こうした問題点を克服するための具体的な手法は次のとおりです。
- メインスピーカーのツィーターは、スーパーツィーターのクロスオーバー周波数よりも低い周波数で再生を終えるように、ローパスフィルターを入れる。
- スーパーツィーターは、メインスピーカーのツィーターと干渉しないよう、ハイパスフィルター(HPF)を介して、特定の超高域から再生を開始させる。
このようにすることで、各スピーカーユニットが担当する周波数帯域を明確に分けることができるため、干渉や位相の問題を最小限に抑えられます。
しかし現実的には、元のスピーカーに手を加えてフィルターを入れるには一定の知識が必要で、既製品の場合には改造を伴います。既製品の改造となると多くのユーザーには現実的な選択肢ではないと言えるでしょう。現実的なのはアドオン方式ということになります。
アドオン方式でスーパーツィーターを使う際には、以下の点を考慮することで、デメリットを最小限に抑え、効果を最大限に引き出すことができます。
- クロスオーバー周波数の選択
多くのスーパーツィーターは、クロスオーバー周波数を調整できる機能を持っています。単体のスーパーツィーターユニットを使用する場合には自身でコンデンサを用意します。クロスオーバー周波数は選択したコンデンサの値によって調整することになります。 - レベル調整
スーパーツィーターの音量(レベル)を適切に調整することが非常に重要です。
メインスピーカーの音量とバランスが取れるように、少し控えめに設定することで、音のバランスが崩れるのを防ぎ、自然な音の広がりや空気感を付加することができます。 - 配置の工夫
スーパーツィーターの設置位置を微調整することで、リスニングポイントでの干渉を最小限に抑えることができる場合があります。
レベル調整については補足が必要です。フィルターの理論だけを考えると、クロスオーバー周波数の調整と、レベル調整の両方を行うことで初めて周波数特性が元のシステムと合わせられるようなイメージがあります。ところが、実際の音圧周波数特性はフィルター特性だけでなく、スーパーツィーターそのものの音圧周波数特性とインピーダンス特性が掛け合わされたものになります。結果的にはクロスオーバー周波数を決めるために使用するコンデンサによって、あたかもレベル調整まで行ったような特性になります。ですから、音圧調整を施す(アッテネーターを入れる)必要があるケースは実は少なく、結果的にコンデンサ一つだけのシンプルな1次フィルターだけの回路で十分実用になります。これについては、弊社の記事、【コンデンサは何μFが適切か?】においてコンデンサの値の簡易的な決め方と共に解説してありますので、ご一読ください。
まとめ
以上のように、スーパーツィーターはごく簡易的なアドオンという方法が一般的ではあるものの、いくつかの課題も抱えているということを取り上げました。本文だけを読むと、アドオン接続があたかも妥協の産物であるかのような印象を持つかもしれません。
多くの場面において、アドオン接続は最も効果的なやり方として紹介されており、実際に高い効果を得ることができます。一方で、今回取り上げたような課題があるのも事実です。市販の完成品スピーカーへの接続はアドオンが主流となるのは致し方ないとしても、自身でネットワークに自由に手を加えられる自作スピーカーにおいては事情が異なるかもしれません。突き詰めた調整や検証がなされていないだけで、本体側へのローパスフィルターの挿入や、ツィーター側のフィルターの高次化などを厳密に行えば、「コンデンサ1個だけ」のアドオン接続以上の効果が得られる可能性は十分にあると思います。
特にフルレンジスピーカーにおいては、スルーで接続するのが基本という考えには根強い支持があります。そのことが逆に、私自身を含めて、思考停止に陥らせている面があるかもしれません。これについての検証はまた別の機会に行ってみたいと思います。

FE103NV2とT90Aの組み合わせ/T90Aに0.1μFでアドオンした場合とさらに0.1mHで2次フィルターとした場合
総合特性はそれほど変わらないが数kHzの帯域のT90Aからの出力はかなり違う。これが聴感でど影響するのか?