「バスレフ型」はいいの?悪いの? メリットとデメリットをどう解釈するか

バスレフ型のメリットとデメリットを検索すると…

バスレフ型以外でおすすめのエンクロージャーを教えてください」そんな質問を頂くことがある。
バスレフは現代では最もオーソドックスな形式なので、「たくさん作って飽きた」ことが理由なのかと思えば、そのようなことはなく、初めて自作に挑戦しようとしている方だったりする。
やりとりをする中で、なぜそのようにおっしゃるのかが明らかになることもある。そしてその理由が「ネット上でバスレフ型のデメリットを読んだこと」だったりするのだ。
最も一般的な形式だから当然レビューも多く、結果的にデメリットに触れたレビューも多く目にすることになるのだろう。
積極的に探せば、バスレフのデメリット情報はたくさん入手できる。

ざっと調べると次のような情報が入手できた。

デメリット

低音の遅延と音の濁り:
バスレフポートからの低音は、スピーカーユニットからの音よりも遅れて出てくるため、音のタイミングがずれ、音が濁って聞こえる。
特に、低音のレスポンスが重要な音楽では、この遅延が気になる場合がある。

特定の周波数における音の強調:
バスレフポートの共振周波数付近の音が強調される傾向がある。
それにより特定の低音だけが強く聞こえ、音全体のバランスが崩れる。

ポートノイズ:
バスレフポートから出入りする空気によって、風切り音のようなノイズが発生することがある。
大音量で再生した場合や、ポートの設計が不適切な場合、ノイズが目立ちやすくなる。
ポートの空気の流速があがると乱気流が発生しノイズになる。

位相のずれ:
バスレフポートからの音とスピーカーユニットからの音の位相がずれることで、音の定位感や立体感が損なわれる。

箱の大型化:
密閉型に比べて、同じ低音再生能力を得るために、より大きな箱が必要になることがある。

中域の音漏れ:
ポートから中域の音が出てしまう。

ここまで語られると真実味がある。

逆にメリットとしては次のようなものが検索できた。

メリット

低音増強効果:
バスレフポートから放出される低音により、スピーカー全体の低音再生能力が向上する。
これにより、小型のスピーカーでも豊かな低音を楽しむことができる。

高効率:
バスレフポートが低音を効率的に放射するため、密閉型に比べて同じ出力でもより大きな音量を出すことができる。

低音の量感:
バスレフポートの共振効果により、低音の量感を増やすことができる。
(したがって)迫力のある低音を求める場合に適している。

小型エンクロージャーでの低音再生:
密閉型に比べ比較的小さいエンクロージャーで低音再生が出来る。

デメリットと矛盾しているように感じるところもあるが、定義次第では矛盾していないとも言える。
ただ、全体的に「ん?」と感じる表現がないわけではない。

ネットで検索することの難しさ

メリットもあればデメリットもあるという点においては他のエンクロージャー形式も同様だ。バスレフはうまく設計すればむしろデメリットは少ない方ではないかと思うのだが、ネットの情報だけでそれを判断するのは難しいだろう。
また、メリットあるいはデメリットを実際のバスレフを聴いて体験した時、上記のいずれかの印象を持てば、「やっぱり」と思うであろう。
腑に落ちやすい因果関係(のようなもの)を経験してしまうと、たとえその経験が一度だけだったとしても、あらゆるケースで起こる現象だと結論づけてしまいやすい。相関関係を因果関係だと誤って判断してしまうこともあるだろう。
「バスレフだから」、「フルレンジだから」、「真空管だから」。本来、出音は複合的なことがらが積み重なって決まるのだが、腑に落ちやすい要因があると、そのことだけに因果関係があると判断してしまう。
「バスレフだから低音がブーミーだ」、「フルレンジだから高域は分割振動で音が悪い」、「真空管だから柔らかい音がする」等々である。

デメリットは真実なのか

バスレフ型の動作原理を考えると、確かに低音は遅れてきそうな気がする。「スピーカーユニットの背面から出た音が、ヘルムホルツの共鳴管の原理で位相が反転し、ユニット正面から出る音と同相になって出てくる」というプロセスには時間を伴う。ただそのことが原因で遅れを感じるのなら、多かれ少なかれ、全てのバスレフでそれを感じなければおかしいことになる。
個人差があるので「誰もが遅れを感じないバスレフも存在する」とは言えないが、ほとんどの人が遅れを感じないバスレフはたくさんあるように思う。
理論的な側面からそれらしいデメリットを指摘されている場合、それ自体はデメリットとして確かに存在していることも多い。(指摘している方がよほど誤解しているような場合は論外だが)
先に列挙したデメリットは、実際には正しいものもある。常にそうではないかもしれないが、末尾に「こともある」をつけると、ほとんどの項目は当てはまる。
ただ、そのデメリットが「誰もが気になる程度のものなのか」には疑問の余地がある。もちろんどうしても気になって「ダメ」という人がいることは否定しない。
多くの設計者はそうしたデメリットがあり得ることを理解した上で作っており、メリットだけが感じられるように工夫している。メリット/デメリットを感じるポイントがリスナーごとに異なるので、その工夫が特定のユーザーには無意味な努力となることがあるのはやむを得ない。
デメリットに関しては、他の形式についても同様に理論的側面からのデメリットを指摘することは可能なのであり、メリットやデメリットを個々のユーザーが重みづけをして選択するしかない。
どの形式であれ、適切な設計がなされ、適切な調整が施されたものはそれなりに良い音がするものであり、特定の要素だけに固執しすぎるのは時に窮屈だ。

チューニング(設計値)によっても大きな違いが

一方で、世の中に出回っているバスレフ型のスピーカーが全て(私の感覚で)適切にチューニングされているわけではないのも事実だ。
低音の量や迫力を重視するあまり、極端なチューニングが施されているものもある。いわゆる「遅れ」のようなものが感じられたり、オーディオ的観点からすれば「ブーミー」と言える低音であったとしても、「スゲー重低音!」というポジティブな評価がなされることもある。逆にオーディオ的観点からすれば「低音の音階表現ができている」という評価であっても、「低音が全く出ていない」というネガティブな評価がなされることもあり、これらを一括りにして「形式」だけで判断するのは明らかにおかしいとわかる。
また、理論から導き出されたチューニングの値であれば常に適切であるとも限らない。
前述のように、少しは低域が持ち上がっていた方が気持ちが良いと感じる人もいれば、周波数のカーブがあまり肩を張らずに緩やかに減衰していくのを好む人もいる。

いくつかのタイプのバスレフと密閉によるシミュレーション(SEAS FA22RCZ)
一口に「バスレフ」と言ってもチューニングによって特性は大きく異なる。

シミュレーションの難しさ

バスレフ型や密閉型のシミュレーションは比較的用意だが、シミュレーション結果と実際に聴いた音の相関をある程度判断できるようにならないと、シミュレーション段階でどのようになっていると自分の好みに合致するのかを判断するのは難しい。
また、吸音材の使い方や板の種類や強度等によってもバスレフの動作は変化する。特定のパラメータをいじればそのような部分も含めてある程度予測することも可能なのだが、これもある程度の実践を繰り返さなければその塩梅を見つけるのは難しい。
完成後に「測定&試聴→調整」を繰り返せる場合はそこまでこだわる必要もないが、完成後の測定や調整のプロセスを前提としない場合は、設計段階でかなり精緻に設計値を突き詰めておく必要がある。

情報の選択は慎重に

世間を賑わす「偽情報」とまではいかないが、意図的ではなくても、結果的に「偽情報」に近いような情報は非常に多い。
最近ではネット検索やレビューを読むよりもAIに尋ねた方がマシなのでは?という状況だ。
具体的な商品やその設計手法について尋ねると誤りが多いが、「バスレフについて」などであれば一般の人によるレビューやブログ記事、SNSなどの情報よりはバランスの取れた回答が得られる。

ただ、具体的な商品を活用しようとしたり、個々の好みに合わせて適切に設計しようとすると、少なくとも現時点(2025年4月時点)では無料のAIではまだ難しい。(そもそもユーザー側が好みなどを適切に言語化し、AIとやりとりできる程度の基礎知識は必要)
そういう意味では自身にもまだ存在価値はあると思うけれども、1年後(もしかしたら数か月後?)にはどうなっているかはわからない。