2024年12月下旬、フォステクスから新作のホーンツィーター、T90A-STが限定発売されます。「T90Aをベースに、新開発のリング形状チタン振動板を採用して更なる音質向上を図ったホーンスーパーツィーター」だそうです。ホーンとイコライザーはアルミ合金製とのことで、質量はT90Aとほぼ同等です。
今回、注目するのは97dBという音圧です。もちろん新開発のチタン振動板も気になるところなのですが、T96Aがラインアップから無くなってしまった今、100dB未満の音圧は貴重です。この手のホーンツィーターは100dB超のモデルが多く、レギュラーのT90Aは106dB、これまでの限定のT90A系統のモデルも全て100dB超えでした。
97dBはT96A系統の各モデルの96~97.5dBに近く、10cmフルレンジなど小口径のフルレンジに組み合わせやすい音圧となっています。
T90A-STを聴いてみる
試聴機を借りられる期間が限られているので、このツィーターの特長を発揮しやすそうな10cmフルレンジとの組み合わせを試してみることにしました。また、T90A系統のレギュラーモデルであるT90A(106dB)、そのバリエーションとして2021年3月に発売されたT90A-SE(103dB)とも比較してその特徴を探っていきます。
組み合わせるフルレンジは10cmフルレンジのFE108SS-HP、エンクロージャーはバックロードホーンです。フィルターは定番の6dB/octの単純な1次フィルターで、T90AとT90A-SEには0.11μF(0.22μF 2個を直列接続)、T90A-STには0.22μFを使用しました。このフィルターで10kHz以上の音圧はほぼ同等、ほんのわずかにT90A-STが控えめなくらいです。T90A-STのf特を見ると、3〜8kHzの音圧が10kHz以降よりも盛り上がり、100dBを超えてる帯域もあります。それぞれのフィルターを通した場合の音圧も、T90AやT90A-SEが6kHz付近の音圧が15kHz付近に対して概ね6〜7dBほど落ちるのに対し、T90A-STはほぼ同等の音圧が残ってしまいます。軸上で聴く場合は気になる可能性もありますが、軸外では聴感上特に気になることはありませんでした。
20cmフルレンジのように10kHzを超えると音圧の低下が起こるようなユニットの場合は、スーパーツィーターをアドオンすることでその帯域の音圧を得ることも目的の一つになることがありますが、10cmフルレンジのように単体でも20kHz付近まで十分な音圧が得られている場合は、音圧面での貢献よりもむしろ音質面、さらには低域も含めた全帯域の質感の向上といった効果が期待されます。今回の試聴では高域における「音圧」を基準としてコンデンサーの値を選択しましたので、音圧面での貢献度はどのモデルもほぼ同等でしたが、質感の違いは十分に感じ取ることができました。高域における違いはもちろん、「全帯域の質感への影響」もそれぞれの違いを感じ取ることができましたが、特に、この「全帯域への影響」にT90A-STの特色がよく表れていたと思います。
T90A系統との比較
比較においては、組み合わせるフルレンジとの相性だけでなく、コンデンサーの選択や設置位置の調整等も影響します。従って絶対的な評価や機種そのものの比較はなかなか難しいのですが、それを踏まえた上で、前述した条件下における印象をご紹介したいと思います。
基準としたのはレギュラーモデルのT90Aです。音圧が高く、10cmフルレンジとの組み合わせは難しいところもあります。特に今回組み合わせたFE108SS-HPは高域の質感が高く、ハイ上がりにもなっていません。そうした点からも、アドオンツィーターの選択と調整は他のFE系の10cmフルレンジよりも気を遣う必要がありそうです。FE108SS-HPの高域とT90Aの高域の位相を合わせ、音圧がきれいに合成されると、高域の音が少し気になるようになってしまいました。ツィーターの主張が過ぎるような印象です。わずかに設置位置を調整をすることで悪目立ちするようなことは無くなりましたが、それでもFE108SS-HPとのマッチングは今ひとつといえそうです。この組み合わせの場合は、もう少しコンデンサを小さくして、ほんの「味付け程度」で使うのが良さそうです。T90Aについては他のFE系のフルレンジとの組み合わせの方が良い結果が得られます。決してT90Aが悪いということではなく、依然としてT90Aが様々なタイプのスピーカーと組み合わせやすいモデルだという認識に変わりはありません。
入手のしやすさはともかくとして、同じT90系統の限定モデルとしてT90A-SEも聴いてみました。このモデルはホーンがステンレス製で、他の2モデルとは質量が大きく異なります。他のモデルが0.8kg程度であるのに対し、T90A-SEは1.2kgと1.5倍の質量があるのです。T90A-SEの音は質感がFE108SS-HPの高域とよくマッチしており、落ち着いた品のある雰囲気です。元々同系統の16cmフルレンジFE168SS-HPと同時発売のモデルということがあるからでしょうか。T90Aと音圧的にはほぼ変わらない(スペック上の音圧ではなくフィルター通過後の10kHz以上の音圧)はずなのですが、高域が悪目立ちするようなことは一切ありません。T90A-STのレビューであるにもかかわらず、T90A-SEの良さを再認識する結果となりました。
そして肝心のT90A-STです。T90A-STの高域はFE108SS-HPのような「上品な高域」というよりは、他のFEの高域の傾向にマッチしているかもしれません。FE108NSやFE108EΣ、FE103系統の各モデルに合いそうな雰囲気です。ただFE108SS-HPの高域に、ほんの少し煌びやかさを加えたいような場合には最適と言えるでしょう。主張し過ぎず、かといって控え目過ぎず、フルレンジだけでは得難い緻密な表現力を見せてくれます。また、スーパーツィーターならではの空気感の表現も相当なレベルです。音場には奥行きが生まれ、立体的な音場が形作られます。高域以外の音にも耳を傾けると、低域から中域にかけての質感の変化もなかなかのものです。今回組み合わせたFE108SS-HPのバックロードホーンにおいては、低域の締り感、中域の芳醇さなどにおいてポジティブな変化が感じられました。アドオンツィーターを採用することで得られるこうした変化に関しては、今回比較したモデルの中ではT90A-STにアドバンテージがあるように思います。小口径フルレンジとの組み合わせでこれができるというところがポイントになるでしょうか。他のモデルでこのような効果を得ようとすると、高域の音圧が高くなり過ぎてしまったり、アッテネーターが必要になってしまったりと、それと引き換えに失うものが出てきてしまいます。FE108SS-HPとの組み合わせにおいては、T90A-SEが、ある意味無難な組み合わせと言えるのに対し、より積極的なアレンジを加えられるのがT90A-STと言えるかもしれません。
もちろんこれは小口径フルレンジ、しかも高域が他のFEとは少し異なるFE108SS-HPに加えた場合のインプレッションですから、他のユニットとの組み合わせではまた違った印象になると思います。調整の仕方次第では、また別の特徴を引き出すこともできるでしょう。それにしても価格はかなり高価になってしまいました。価格だけを見てその中身を見ずに、「高いのだから前のモデルよりも良いものなのだろう」と安易に判断しないことは必要です。近年の値上がりは単なるグレードアップだけが理由ではなく、物価高やその他諸々の事情を含んだものだと思います。モデルごとの違いを見極めた上で、それぞれのユーザーが求めている方向性に合致するのであれば、この機会に入手されてもよろしいのではないでしょうか。
エクスペリエンス・スピーカー・ファクトリーではアドオンツィーターの設置方法、調整方法等について、ユーザーそれぞれの事情に合わせたアドバイスを行なっています。どうぞ安心してお買い求めください。
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