日本のバックロード ”原点”の復活
1979年に発売されたバックロードホーン専用ユニットの原点とも言えるモデル “FE203Σ” が FE203Σ-RE としてよみがえります。
FE203Σ-RE は かつての FE203Σ をベースに当時の要素技術と現代の最新技術を融合して造り上げた20cmフルレンジスピーカーで、バックロードホーンの優れた特長を最大限引き出し存分に楽しめる限定生産のスペシャルユニットとのことです。
昔ながらのファンであれば、この色の振動板には良い思い出も、そしてあるいは、嫌な思い出もあるかもしれません。主な材料は当時と共通のようですが、その製法には大きく異なる技術が用いられています。1つ目は「超叩解」という製造技術。長繊維パルプと短繊維パルプをそれぞれ別々に叩解(紙を製造する時の前工程/パルプを水中で押しつぶしたり切断したりする)し、混合して抄紙する製造技術です。2つ目は Sol シリーズや FF-WK シリーズでも採用されている「2層抄紙」。2段階で抄紙することにより、基層と表層、2層で1つの振動板を構成する製法です。
FE203Σ-RE はかつてのFEの正統な進化系モデルだ
先日、フォステクスの試聴室にて、FE203Σ-RE を取説掲載予定のバックロードホーン型エンクロージャーに入れた状態で聴かせていただきました。
このバックロードホーンは20cmバックロードホーンとしては比較的小ぶりなトールボーイでホーンも短め。なんとサブロク板1枚で1台作れるというシンプルながらも実用性の高いフォステクス渾身の作品です。このバックロードホーンで聴いた FE203Σ-RE の音はまさに「かつてのFEの音」。とは言え全く同じというわけではもちろんありません。その音からは、「現代の技術」が投入された効果を確かに感じ取ることができました。
この色の振動板を使ったモデルの一般的な評価と言えば、「元気が良いのは良いが、紙臭さが残る」というものだったと思います。今回のモデルについても、「この振動板は紙臭いに違いない」という先入観による評価がなされるものと予想されます。ただ物事はそう単純でもありません。「○○だからこう」のような単純な論評は疑ってかかるべきだと思います。まして今回は「現代の技術を投入してリニューアル」とうたっているわけです。実際に聴いてみたところ、当時、私自身も多少なりとも感じていた「紙臭さ」のようなものを感じることはありませんでした。製法だけで(といっては失礼かもしれませんが)こうまでなるものかと、改めてその技術に驚かされます。
近年発売された FE○○○SS-HP のような「端正さ、滑らかさ、低域の馬力」と言った方向ではなく、「突き抜ける高域、元気さ、そこから生じる空間表現の巧みさ」というような、かつての FE の特長をそのままに、同じ方向に進化しているような印象を持ちました。かつての磁気回路強化モデルで感じられたような、駆動系のパワーに負けて振動板が鳴いてしまうような様子は感じられません。突如現代に復活した FE203Σ-RE は単にノスタルジーを感じさせるだけではない、現代の技術を巧みに融合させたかつての FE の正統な進化系モデルだと言えるかもしれません。
磁気回路はΦ133mm, 20mm厚のマグネット2枚重ね。磁気回路がこのように強化されれば当然駆動系もそれに合わせた設定となります。上の写真でわかるように、FE206NV2(右)がダウンロールエッジなのに対して、FE203Σ-RE では波型のエッジになっています。これは FE208NS や FE208-Sol など、強力な磁気回路を備えたモデルに採用されているエッジで、このモデルもその系譜ということになります。
今回試聴した取扱説明書に掲載される予定のエンクロージャーは、シナ合板、パイン集成材、MDF の3種類で試作されています。それぞれに特徴のある音色を持っており、お好みによってどの板材を選択するかは違ってくると思います。単純化すると「質量」と「響きの量」の2点が全体の鳴り方に影響します。質量が大きくなれば低音の力強さが増しますから MDF などはその点で有利になります。一方で響きが少なくなれば、音の収束が早く、空気感や細部の表現が今ひとつに感じられることもあります。こうした点は調整によってもある程度コントロールが可能ですが、板材選択の場面でも一考の余地があります。
個人的にはフォステクスの小ぶりのエンクロージャーで鳴らしてみるのが良いのではないかと思いますが、中には長岡氏の D-7MKIIa や D-7MKIII などの復活を目論む方もいらっしゃるのではないでしょうか。ユニットのご購入やエンクロージャーの製作、その後の調整など、どのようなことでも構いませんので、ご相談のある方はお気軽にお問合せください。
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