FEシリーズのバスレフを考える(FE103NV/FE103NV2 を例に)

ここがヘンだよ? FEシリーズ

FEシリーズはフォステクスの最も伝統的なフルレンジのシリーズだ。アンプにパワーが無く、スピーカーに能率の高さが求められていた時代、とにかく振動系が軽く、反応の良いスピーカーをということで開発された。(実際にももっとちゃんとした背景もあります)近年のモデルチェンジによって多少は現代的な要素が盛り込まれつつあるものの、そうした基本的なコンセプトは現代でも受け継がれている。極限まで薄くて軽いエッジは無付加の状態では激しく逆共振を起こす帯域がある。2pi 空間、無限大バッフルに取り付けられた状態、つまり公式スペックとして発表される状態で測定すると、エッジの逆共振によるディップが激しく出る。実際に使用されるのに近いシチュエーションで適度な付加をかければここまで激しいディップは出ないとは言え、公式スペックとして発表される以上、商売のことを考えればあのディップは消すのが良さそうにも思える。実際、開発段階ではディップが出ない試作品も作られたらしいのだが、「FEの音ではない」という理由で、結局従来のスタイルが貫かれたと聞く。できるのにやらないのだから、商品としてはそのままの方が良いという判断なのだろう。

もはや入門モデルではない

FE シリーズには 8, 10, 12, 16, 20cm の5種類の口径がある。エンクロージャーはバックロードホーンやバスレフが推奨されているのだが、16cm(FE166NV2)や 20cm(FE206NV2) のモデルをバスレフで使っても、低音感は得にくい。作例として発表されているボックスも、低音の量感よりもタイトさや質を重視したような設計となっていて、「低音をたっぷり聴かせてやろう」という意図は全く感じられない。現代の一般的な設計値のスピーカーを使ったシステムと比較すると、(少なくともバスレフ型のエンクロージャーに入れた場合は)低音の不足感は明らかだろう。

それでも、このストイックとも言える低音と、キレの良い中高音には根強いファンも多い。かつては自作の入門モデルとされていた FE シリーズだが、現代から振り返ると、こんなに特殊なスペックのユニットを「入門」と位置付けていたというのも面白い。(当時としては普通だったのだと思う)実際、私自身も初めて購入したのは FE83 だ。昔は長岡鉄男氏が設計したモデルをはじめ、FE シリーズを用いた作例も多かったので、その通りに製作すればユーザーはそれなりのパフォーマンスを獲得することができた。もっとも長岡氏の潤沢な作例があったからこそ「入門」などと言われていたのかもしれない。現代、真似る例が少ない中で、いきなりこのユニットを使いこなすというのは本当はかなり難しい。どちらかと言えばむしろ FFシリーズの方が入門と言えるだろう。

16cm 以上の口径のものは基本的にバックロードホーン専用に近い(一応バスレフの作例も発表されている)のだが、12cm(FE126NV2) まではどちらでも使える。8cm(FE83NV2) と 10cm(FE103NV2) はスペックだけみればむしろバスレフ向きとも言われてしまいそうだ 。(Qts だけから判断する昔ながらの判断基準では)

バックロードホーンについは一応はそれに特化した入門者向けの書籍があり、バックロードホーンではほとんどの場合 FE系のモデルが使用される例が多い。バスレフについては入門者向けからかなりマニアックなものまであるが、フォステクスのフルレンジを想定しているものはさすがにない。あえてここでは、例の少ない、そのフォステクスのフルレンジ、中でも最も歴史のある 10cm モデル、現行だと FE103NV2(FE103NV とスペックは同じ)をバスレフで使う場合を例に、バスレフについての基本的事項を振り返ってみたい。

FEシリーズの特徴について FFシリーズと比較しながら説明した記事も参考にどうぞ

内容積を大きくすると共振点での低音の音圧が高くなる

バスレフ型のエンクロージャーはダクトの共振周波数を一定とした場合、内容積が大きくなるほどその周波数付近の音圧は高くなる。

次の図-1は最も標準的なラインを描く青のグラフを基準とし、共振周波数(Fb)を 81Hz に固定して内容積を3Lt ずつ増やしていった場合の特性(シミュレーション)の比較である。共振点付近の音圧が内容積の増加に従って大きくなることがわかる。(縦軸が 1dB 刻みのため、違いは強調されています)

図-1

「共振周波数」ではなく、ダクトの長さや大きさを変化させずに内容積を変化させた場合は、内容積の増加に伴ってチューニング周波数も下にズレていくのでこの考え方は当たらないから注意が必要だ。バスレフ型のスピーカーを自身で検討している段階では、チューニング周波数や内容積をどの程度にするのかということを机上で考えるであろうから、その時はチューニング周波数と内容積の関係として意識しておく必要がある。

内容積の変化は量感に大きく影響するが、レンジには影響しない。また量感の変化は質に影響する。量が増えることで得られる満足と、質が低下して生じる不満のバランスを考慮しなければならない。

共振周波数を下げると量感は減っていく

内容積を固定してダクトの共振周波数だけを変更した場合の変化が次の図-2。標準的なラインを描く青のグラフを基準とし、内容積を 6.8Lt に固定して共振周波数を 10Hz 刻みで変化させたものだ。

図-2

共振周波数を上げると、量感は増すもののレンジは狭くなる。一方共振周波数を下げるとレンジは低い方に伸びていくが、量感は低下していく。

図-1と図-2を総合的に考えると、内容積を増やし、共振周波数を下げれば、量感を保ちつつ、十分にレンジを伸ばすこともできそうなものだが、極端にそれをやってしまうと共振周波数付近だけが盛り上がり、途中に谷ができた特性になる。(図-3)それも音作りといえば音作りと言えるのだが。なお、前述のとおり、これらのグラフは縦軸の音圧を 1dB 刻みで表示しているため、違いが強調気味に感じられる。図-3 は一見大きくしゃくれているように見えるが、実際にはそこまで極端なしゃくれでもない。(ただこのようなカーブを描く時の低音の質は今ひとつなことが多い。特に FE の場合。)

図-3

量感とレンジのどちらを重視するのかはお好み次第だが、ユニットの性能の特徴もあるので、そのユニットを選択する時点で、ある程度はその特徴も考慮しておく必要がある。FEシリーズの場合は量感重視だと中高域とのバランスがとりにくいことが多い。明らかにウーハーの低音が好みであるのに、それをフルレンジで出すことは難しいし、その逆も然りである。ウーハーのような量感をもとめて FE を使うとおそらく思い通りの音は出ないのだが、それを知らずに使って、この音にハマってしまう人もいたりする。(もちろん全く好みに合わずに「なんじゃこりゃ?」となる人もいる)

また、こうした低音特性は聴く曲によっても印象が変わる。普段色々なジャンルの曲を聴く場合には試聴も色々な曲で行う必要がある。

なお、図-2 のグラフを見ると、青が最も良さそうだが、聴いてみると必ずしも最も良いわけでもない。(グラフを見てから試聴すると影響されてしまいそうだが)もちろん個人の好みにもよる。

最適な内容積と共振周波数をアライメントテーブルから探る

ユニットのパラメーターからアライメントテーブルを参照すれば、一定の条件においてそのユニットに所謂「最適」な内容積と共振周波数を得ることができる。テーブルにもいくつかの種類があり、さまざまなロスの要素(エンクロージャーの強度や内部の吸音量等)をどの程度に想定するかによっても実際との相違はあるのだが、特徴を理解した上で用いれば、それなりの特性が得られる。

図-4は FE103NV2 のパラメーターをもとに、Fostex の Application Sheet のバスレフボックスと、3種類のアライメントテーブルから導かれた数値に基づいてシミュレーションした低域特性。

図-4

ここでもグラフは縦軸を1dB 刻みとしているので差はかなり強調されて表示される。橙はフォステクスの Application Sheet に掲載されているバスレフボックス。低音の量はかなり控えめに設定されていることがわかる。ただ低域が下降し始めるのは早いが 70Hz 以下 の音圧は最も高くなっている。

聴いた感じの低音の量は赤と青が明らかに多く感じられる。緑は聴く曲による。

クラシックや小編成のジャズなどは橙が生々しく再現されそうだ。

最も「フラット」と言えるのは青。(図-1, 図2 で標準に設定していたもの)初めての場合はこちらのセッティングで行ってみるのも良いかもしれない。いずれにしても形状だけ見ればテーブルから導き出された数値によるものは綺麗な形の特性だ。ちなみにシミュレーションソフトによってはいろいろなパターンを検証して最も低いところまでフラットにする値を出してくれるものがあるのだが、とんでもなく大きな容量(何百リットルとか)に、ものすごい量の吸音材を入れてようやく実現するような、とんでもなくワイドレンジの結果を出してくる。そこは人間のおおらかさで見過ごそう。

なお、普通のユニットであればこのようなテーブルを参考にするのも良いが、ここで例に挙げているフォステクスのFEシリーズのような、パラメーターや特性が、通常の概念とは少し異なるユニットの場合、こうしたアライメントテーブルを用いてエンクロージャーのパラメーターを決定しても、あまり良い結果が得られないこともある。(基本的にパラメーターはウーハー前提)実際問題として、メーカーが例として挙げているエンクロージャーと比較してみると、テーブルの数値とはかなりの違いがある。これは、このユニットの特徴を活かすには無理に量感を稼ぐよりも、低音のタイトさと(音圧は多少低くても)レンジを広めにとった方が良いということを示唆しているのかもしれない。いずれにしても自身の狙いを明確にした上で、その結果を目指して内容積やチューニング周波数を決定していく必要がある。

アライメントテーブルから得られる音の方向性が好みである人もいるだろう。そのような場合は特に苦労はない。ただこれらは冒険的要素は少なく、あくまでも一定条件下での「最適」が示されているだけで、特別な意図を持っているわけではない。ベストかと言われれば、特性的にはベスト(綺麗に限界点まで伸びて、そこから素直に低下)に近いものとは言える。しかし Fostex の FE シリーズの場合はそもそもユニットの個性が強いので、それを標準的に使うというのも面白くない。2way バスレフを作る場合などはネットーワークやユニットの組み合わせで個性が出せるので、箱の方はこのような設計方法でも良いかもしれないが、フルレンジでこれをやってしまうと個人で工夫すべきところはかなり少なくなってしまう。もちろん最終調整や仕上げなどの面で工夫すべきところは多くあるので「木工の楽しみ」という点は残る。「スピーカー作りの楽しみ」をどこに見出すのかという点に尽きる。

調整するときは低音/中音/高音で分けて考えすぎない

以上は低域のシミュレーション特性なので、これだけでシステム全体の音が決まるわけではない。低域だけを理想的と言われる特性にしたところで、中高域はそのユニットの個性が出る。特にフォステクスのフルレンジユニットは中高域に特徴があるものが多いため、その特徴にバランスするような低域を組み合わせることが必要だ。低音の特性を平坦にすることがユニットの個性とマッチするとは限らない。

音出しをして、試聴してみて、低音/中音/高音のそれぞれの特徴を聴き分けることはある程度できるであろう。ただし、何か不満な点(その逆も)があった時に、その原因を見極めることは意外に難しい。例えばスーパーツィーターを付加すると中低音の聴こえ方までも変化するように、色々な帯域の状態が互いに影響しあいながら全体の聴こえ方が変化する。低音に問題があるからと言って、低音に直接関係するような、例えば「ダクトの共振周波数」をコントロールすることだけが解決策ではない。中高域の音圧を調整することで、相対的に低音の量感を上げるような、バッフルステップ補正/(長岡式だとPST回路)のような手法があるように、余計な中高域を取り除くことで、低音の聴こえ方が変化することもある。これは量の問題だけではなく、質の問題もだ。

同様に、低音の余計なダブつきや過剰な量、低音域における過剰な振幅が中高域の再生音に影響して質を低下させることもある。フルレンジの場合は同じ振動板から音を発しているので、とりわけそのような影響が強くなる。

慣れてくると、原因や改善点が見極められるようになってくるが、どうしても分かりやすいところに手を付けてしまう。多くの箇所に細かい調整を次々に施していくと、解決するために行なった対策が複雑に影響し合う。多くの対策ポイントのうち、一つ欠けてもダメという状態になってしまい、安定感のない状態で好みの音が出来上がってしまう。

実はもっとシンプルに同じ(あるいはそれに近い)状態を得ることは可能だったりする。その方が再現性も高く、より安定した形で好みの状態を維持することができる。なかなか難しいことではあるのだが。

実際にはかなりの事柄においてケースバイケースであることが多いです。細かいところまでを書くのは難しので、なかなかうまく鳴らないという場合にはお問合せください。

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