密閉型エンクロージャーとフルレンジ

密閉型を選択する理由

密閉型エンクロージャーに関するお問い合わせを頂くことがあります。私の仕事がフォステクス関係のものが多いことから、フォステクスのフルレンジについて「密閉に使えますか?」というようなお問い合わせを頂戴するわけです。密閉型のエンクロージャーには次のようなイメージがあるように思います。

  • 小型化できる
  • 設計時のパラメーターが少ない(内容積のみ)
  • ボックスに開いた孔から余計な響きが出ない

一般的な見解から言えばほとんどその通りです。「バスレフの音が苦手」とおっしゃる方は一定数おられ、そのような方が他の「共鳴を利用するボックスが好き」「ホーンが好き」というケースは少ないように思います。(「バスレフよりもホーンが好き」という方はいらっしゃると思いますが、そのような方は密閉ファンほど「バスレフが苦手」ということは多くないように思います)

密閉ファンはエンクロージャー内から漏れ出てくる音が苦手だったりダクトの共振音そのものが苦手ということが多いようです。そのような場合の唯一の選択肢が「密閉」となるわけです。

普段バスレフ型を中心に考えている方々からすれば、このようなバスレフのネガティブな側面は「様々な方法によって回避することができる」となるわけですし、なんらかの方法で回避あるいは軽減できているからこそバスレフで満足のいく音を出すことができているわけです。

ところが密閉ファンからすると、それでもやはりネガティブな側面に耳を傾けるということもあるでしょうから「どうしても受け入れ難い」ということになります。

バックロードホーン向けフルレンジを密閉に?

最も簡単な自作スピーカーはフルレンジ1発ですので、密閉ファンの方が簡単にスピーカーを作ろうとしたときに「フルレンジで密閉を」と考えるのは自然なことです。ところがマーケットを見回してみると、密閉型に適したフルレンジというのはあまりありません。密閉型に求められるスピーカーユニットの特性と、一般的なフルレンジユニットに求められる特性に相容れない要素が多いためです。

密閉型は最低共振周波数(fs)が低く振動系質量が大きいものが適しており、それらはウーハーに多い特性です。一方フルレンジは振動系質量は小さめである場合が多く、密閉型を前提に計算すると低音の減衰がはじまる周波数が驚くほど高い周波数になったりします。

フォステクスのバックロードホーン型フルレンジを使用した作例をみて「なんかこのフルレンジも面白そうだな」と興味を持った方がそのユニットについて調べると、小口径にもかかわらず作例のエンクロージャーが異常に大きいことに気づきます。そこで「このユニットをなるべく小型のエンクロージャーで鳴らしたい」→ 巷では「バックロードホーン専用ユニットにバスレフはNG」と言われている→「密閉ならどうなのだろう?」となることもありそうです。

ところがこれらのバックロードホーン用とされているスピーカーユニットこそ密閉型には最も向いていません。それらユニットのパラメーターはある意味「異常値」とも言えます。「あえて低音が出ないスピーカーを作る」という目的、例えばサブウーハーを使うことが前提であるとかミッドレンジとして使うということがないのであれば、これらに密閉型ボックスを採用するということは通常はありません。

Fostex FE208-Sol と 6N-FE208SS 「バックロードホーン専用」の典型

なかには小さなスピーカー を作ることが目的ではなく、「密閉型が好き」「バックロードホーン用フルレンジを試したい」という2点から計画されている方もいらっしゃいます。そのような場合「巨大な密閉なら何とかなるのではないか」と100Lあるいはそれ以上のサイズならどうか?と考える方もいらっしゃいます。しかし考えてもみれば、大きくなればそれはいわゆるJIS箱に近づいていくだけです。決して JIS箱の音が低音域までバランスのとれた音になってはいないということは何となく実感の湧くところだろうと思います。「大きければ何とかなる」ということは全くありません。

従って、密閉型には密閉型に向いた例えばウーハーなどを用いた2ウェイなどでプランニングするべきであって、フルレンジ、特に軽量コーンのフルレンジには期待されない方が良いと思います。

もちろん目的は人それぞれですから、明確な目的をお持ちの場合はその限りではありません。「ミッドレンジとして使用する」などは明確な目的の一つと言えると思います。本題からはずれますが。

また、密閉型に向いたスピーカーユニットを選択する目安として EBP(Efficiency Bandwidth Product) という数値もあります。これは fs ÷ Qes で算出され、単純に50以下のユニットが密閉型に適するとされています。フォステクスのバックロード向けユニットの EBP は次の通りです。

ユニットEBP
FE208EΣ221
FE208NS205
FE206NV166
FE168EΣ189
FE168NS150
FE166NV177
FE108EΣ241
FE108NS214
FE126NV214

これらのユニットは 50 どころかバスレフ型の目安となる 100 をも大幅に上回っています。ちなみに上の写真(左)にある FE208-Sol は ‘290’ です。

「数値だけをみると」バックロード用の中では最もバスレフ向けの「数値」に近い FE168NS。だから「バックロードに向いていない」というわけではない。

こうした「数値」はあくまでもオーソドックスなものを狙うための目安です。明確な目的を持って変則的な使い方をするのは何ら差し支えないと思います。逆にこうした常識に逆らい、どこかに秀でた特長を持ったものを生み出そうという精神はいつまでも持っていたいものです。