FOSTEX 6.5″ 2way Project Phase 3 (Woofer 2) Text 2/3

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資料-7

(乙訓) 次は周波数特性のグラフに出ていた 6kHz 付近のピークの検証です。資料-7 は振動の様子を観察するレーザードップラー振動計です。これで振動板の動きを観察します。

(荒谷) 6kHz 付近で振動板がどのような動きをしているのか。人間の目では見えませんが機械で見てもらおうということですね。

(乙訓) フォスター電機にあるポリテックという会社の商品です。これを使うと振動板の動きが見えるように振幅量を拡大してくれます。その様子を動画で見ることができます。これからその動画を見て頂きます。ここからの解説は玉置にお願いします。

(玉置) はい。資料-7 のレーザードップラー振動計でレーザーを当てて、その反射を見ることで振動板がどのように動いているのか測定する機械です。自動車のドアなど振動するものであればなんでも観測することができます。フォスター電機では円形の振動板の動きを見ることがほとんどです。

 

 

資料-8

(玉置) 円形の振動板を観測するときは 資料-8 のような蜘蛛の巣状のメッシュを切ります。資料-8 左側の写真部分に小さな白い点があります。その白い点それぞれの動きを観測しています。資料-8 で表示しているのは前回ご紹介した FW168HS(レギュラーモデル)です。FE168HS と FW168HRW160A-HR の3モデルについてそれぞれ振動の様子を見ていこうと思います。この3モデルはそれぞれ振動板の形状、ボイスコイルと振動板を繋ぐアダプターの形状などの構成が少しずつ違います。

(乙訓) FW168HS は一般的な形状のコーン型振動板です。中心に穴が空いていて、そこにボイスコイルが付き、その上を覆うようにドーム形状のキャップが付いている構造です。FW168HR HR振動板の裏側に、いつも「(手のひらの)グー型」とお話しているタイプのアダプターが付いています。 W160A-HR は同様に「パー型」のアダプターが付いています。これらはそれぞれ、ボイスコイルで振動板の真ん中に近い部分を押すのか、そのやや外側を押すのかという違いがあります。

(玉置) こうした違いを特徴的にあらわしているということでこの3モデルを比較します。まず最初の FW168HS は一般的な形状のコーン型です。円周上のどこをとってもだいたい同じ挙動をするのが特徴です。資料-8 の右側のグラフは同心円状の16個の点における振幅特性と位相特性点を重ねているグラフです。振幅特性はだいたい同じ形をしているというところを見て頂ければと思います。位相特性は5kHz6kHz くらいまではだいたい同じような特性になっています。このグラフから、FW168HS では同じ円周上ではほぼ同じ挙動をしているということが分かります。

 

 

資料-9

(玉置) 資料-9 は周波数特性と振動板の動きをあらわしたものです。100Hz200Hz あたりは振動板がピストンモーションの動きをしています。600Hz くらいからエッジと振動板の動きが逆になるいわゆる「逆共振」の現象が起き始めます。これはどのスピーカーもそうなのですが、エッジの重さと振動板の重さの重量のバランスで決まってくるもので、どうしても起きてしまうものです。

(乙訓) 駆動点から離れて外周にいくほど遅れて動かされることになります。

(玉置) 1kHz より上あたりからはエッジと振動板の重さのバランスではなく、振動板の剛性によって円形のモードと呼ばれる動きが出てきます。モードとは駆動点となる中心から離れると外側にむかって逆の動きになり、周波数が上がるにしたがってその動きが細かくなっていく現象です。その現象が明らかに多くなっているのが 1kHz 付近から上の帯域です。これが一般的な形状の振動板に特徴的な動きです。

 

 

資料-10

(玉置) 資料-10 は FW168HR です。FW168HR は HR形状の振動板に「グー型」のアダプタを介してボイスコイルが接続されています。中心軸に近いほうを観測した上から二つ(赤の矢印と緑の矢印で示したポイント)のグラフではだいたい同じような特性を示しています。そこから外側にいく(グラフでいうと下がる)につれて線が重ならなくなっていきます。これは各周波数において円周上で異なる動きをしているということになり、それは位相特性にも表れています。

 

 

資料-11

(玉置) 先ほどと同様にこれを周波数特性と合わせてみたのが 資料-11 です。FW168HR では HR振動板の特徴的な形がモードにも出てきています。一般的なカーブドコーンのものと同様に、低い帯域ではピストンモーション、それより少し上の帯域ではエッジとの逆共振が起こっています。しかし、そこから上の動き方が通常のカーブドコーンとは異なるというのが HR形状の振動板の特徴です。

 

 

資料-12

(玉置) さらにそこからアダプターを「パー型」にした W160A-HR です。資料-10 の FW168HR と比較すると駆動点が変わるとどうなるかという比較です。「グー型」で押したとき(FW168HR)では中心に近い赤の矢印のところでは高域に行くに従って動きが少なくなっていくのですが、パー型で押している W160A-HR では周波数が高くなっていってもあまり動きが収束しにくくなり、高域にピークが出ています。これが前回から課題となっていた周波数特性にもあらわれている 6kHz です。(資料-5 参照)

(玉置) この資料をご覧いただいてわかるように 6kHz では中心(特に赤い矢印の部分)だけが動いています。つまり周波数特性に出ていた 6kHz のピークは中心だけが動いていたというのが原因だと分かります。

(乙訓) 教科書どおりその2倍の 12kHz にも出ています。

 

 

資料-13

(玉置) FW168HR はアダプターが「グー型」になっていて駆動点が中心に近くなっています。このような駆動方法だと円形のモードが出やすくなります。資料-11 の観測データで、赤と青が一緒にでているところが多くなっているのはそれぞれの箇所で逆向きに運動していることを表しています。振動板に凹凸があるの花びらのような形をしていますが、そのような振動の特性を持っています。それに比べて W160A-HR のように「パー型」のアダプターで駆動した場合には逆共振をしているところが非常に少なくなっています。これはボイスコイルで押した力に対して振動板が追従していることを意味しています。「グー型」と比較すると青い部分が少なくなっています。これがアダプターの形状(「グー」と「パー」)の違いということになります。

(荒谷) 外側で押すことによって内側がお留守になって 6kHz のピークがでているということですね?

(乙訓) そうですね。同じ HR形状の振動板でが、駆動する位置の違いによって出てくる出力特性がこれだけ違っていました。実際に音を聴いて音質が違うのは当然だということが測定によっても示されました。

(玉置) 駆動するポイントによって発生するモードに対する対策として、平面振動板に複数の駆動点を持たせて振動させるという試みがありました。一つのボイスコイルで中央を駆動するのではなく、円形でない振動板に複数の駆動点で駆動しました。これは昔から使われてきた手法の一つです。

(乙訓) 「グー型」が良いのか「パー型」が良いのかというのは絶対にどちらが良いということはありません。今回開発している鑑賞用のモデルでは「パー型」が適していると思われますが、「グー型」の方が適していることも当然出てくるわけです。


(乙訓)では次に、音楽とサイン波を聞いて 6kHz のピークを検証してみましょう

 

♪ 音楽を再生

♪ サイン波を再生(スイープさせながら 6kHz 付近を聞く)

 

(乙訓) 6kHz のところが明らかにうるさいです。

(荒谷) 確かにピークのところの音が大きいのはよく分かります。

 

♪ 音楽とサイン波を重ねて再生

 

(乙訓) 事前の打ち合わせでこれを聴いてもらったときに、考えていたのと少し違う反応があったんですが、これはどうでしたか?

(荒谷) サイン波を聴けばピークのところがうるさいというのは分かりました。

(乙訓) サイン波を聴けばそこがうるさいというのは分かるんですが、バイオリンを聞いてうるさい感じはあまりしませんね。

(荒谷) それはないですけれども。

(乙訓) 全くないことはないですが。サイン波を聴けば何とかしなければと思いますが、楽曲を聴いている限りは目くじらを立ててなんとかしなければならないという感じはしません。ユニットを作って、測定する前に聴いた時は特に違和感は感じませんでした。

(荒谷) 測定結果を見たあとだとそこを意識的に聴きますからそれで分かってしまうというのはありますね。

(乙訓) そうです。

(荒谷) 私は聴く前から 6kHz のピークを知っていますからそこに耳がいってしまいます。ただサイン波を聴いている時ほどの「うわっ!」という感じは確かに楽曲ではありません。それにしても音楽とサイン波を重ねて同時に試聴するというのも斬新ですね。サイン波を一緒に鳴らすことで「6kHz ってバイオリンの響きでいうとこのくらいか」というのが分かりやすいです。絶対音感のある人なら分かるのかもしれませんが、それが無い人からするとよく分かります。

 

【各周波数における各モデルの振動板の挙動の動画再生(アーカイブでは省略)
*会場では動画を再生してレーザードップラー振動計によってとらえた振動板の挙動を見ました。

 

<解説内容のサマリー>

FW168HS W160A-HR の挙動の大きな違いは FW168HS ではモードが円形に出てきているのに対し、FW168HRでは振動板の形状に起因して単純ではない形状で動いている。

・動画では赤色が振動板が前に動いていること、緑色が後ろに動いていることを表している。つまり赤と緑が同時に表れている部分は位相が逆転していることを示している。

・振幅量は実際には1mmにも満たないが、動画では挙動が分かり易く可視化できるようにデフォルメされている。

W160A-HR は FW168HR よりも振動板を外側で駆動しているため、比較的高い周波数までボイスコイルの動きに外周部分が追従できおり自然な動きをしている。振動板の中央部は振動が激しくなっている(6kHz付近)。

FW168HR では共振が分散しており、全体的に響きが早く終息する方向。響くところ、響かないところがあり、楽曲再生時には余韻のあるところと無いところが出来がちである。傾向としてはモニター的。

W160A-HR は比較的響きと余韻が豊かに鳴る方向。

 

 


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