(乙訓) これ(資料-3)はスピーカーの断面図です。各部品がどのように配置されていて寸法や位置がどのようになっているのかを見ます。
(お客様) FW168-HS 以外はみんなダブルダンパーなんですか?
(荒谷) そのようですね。
(乙訓) そうですね。さすが目の付け所が違います。
(荒谷) 一番左はコルゲーションダンパーが一枚、左から2番目はタンジェンシャルダンパーのダブル、右側の2モデルはコルゲーションダンパーのダブルですね。
(お客様) それはどのような意図でやっておられるのでしょうか?
(乙訓) 荒谷さん、なぜダンパーが1枚のものと2枚のものがあるんだと思いますか?
(荒谷) ストレートコーンか、HRコーンかの違いですか?
(乙訓) 製造上、FW168HS(ストレートコーン採用) は真ん中に穴の空いた振動板を組み立てた後にキャップを取り付けるという手順です。FW168HS 以外の3モデルに使用しているタイプのHR振動板は真ん中に穴がありませんので、組み立てル時に使うボイスコイルの中心を保持する「センター治具」を抜いた後に振動板を被せなければなりません。その時にダンパーを2枚にしておかないと保持がかなり難しいんです。
(荒谷) 製造上のそのような問題もあるんですね。
(乙訓) 1枚ダンパーの場合は治具があるので問題ありません。ですのでダンパーを2枚貼るのはある意味必然なんですが、2枚だから達成し得ることもあります。例えばダンパーは2枚あった方が上下の振幅は非常に安定します。プラプラしないわけですね。
(荒谷) 2枚ダンパーの場合コルゲーションの向きも上と下で互い違いになっていますね。
(乙訓) ついでに理由もどうぞ。
(荒谷) これはアップダウンロール(UDR)タンジェンシャルダンパーと同じ理由ですか? 基本的にスピーカーの振動板は前後、この図の場合は上下ですが、前後運動の前に出るときと後ろに入るときでできれば同じに近い動作の方がいいわけですよね。
(お客様) コルゲーションダンパーに戻ってしまったんですか?
乙訓 なるほど「戻った」という見方もありますか。ダンパーによる動作の違いについてはデータを取ろうとしたのですが、今回は測定器でダンパーによる違いだけをうまく抽出できなかったんです。これは次の課題ですね。
(荒谷) エッジは FW168HS はアップロールエッジで、他はUDRタンジェンシャルエッジですね。タンジェンシャルエッジのサイズも FW168HR と W160A-HR では違いますね? FW168HR が少し幅が狭めで、W160A-HR と W160F-HR が広めです。
(乙訓) エッジの幅は拡大しました。
(荒谷) 先ほど打ち合わせの際にお聞きしたんですが、ダンパーがタンジェンシャルダンパーでエッジがタンジェンシャルエッジではないという組み合わせは動作的に難しいわけですね?
(乙訓) できないことはありません。タンジェンシャルダンパーはその構造上、振幅するときに回転運動があります。ダンパーだけが回転することによってエッジも回転させられることになるわけです。通常のアップロールエッジだとダンパーが振幅して回転運動をしたときにエッジにフニュっとシワがよってしまいます。UDRタンジェンシャルエッジだとそうなりません。ダンパーがコルゲーションだと回転しないのでエッジはタンジェンシャルでもロールでもどちらでも大丈夫です。実はUDRタンジェンシャルエッジも振幅したときの回転運動はあります。あるんですけれどもダンパーがその動きを止めています。その場合、エッジは自分で変形して解決しているわけです。エッジは自分で変形できるんですが、ダンパーはできないんです。ダンパーが変形すると異音がしてしまいます。ですから UDRタンジェンシャルダンパーを使ったときは、エッジもUDRタンジェンシャルエッジになります。そうしないと上手く動作しなかったり、シワが出たりしてしまいます。
(荒谷) 今回はエッジは UDRタンジェンシャルですから、ダンパーも UDRタンジェンシャルにできるはずです。それなのに、コルゲーションのダンパーが使われていることにお客様から疑問が出たんだと思います。
(乙訓) それについてはこの後の資料でご説明します。
(荒谷) わかりました。ダンパー以外でこの図を見て気になるのは W160A-HR はアルニコで、明らかに磁気回路の形状が違うところ。それから一番右の W160F-HR でマグネットの断面に「バッテン(×)」が2個あるところですね。
(乙訓) そうですね。図面でマグネットの断面を「バッテン」にするのはデファクトスタンダードです。それが2個。
(荒谷) つまりこれはマグネットが2枚重ねということですね。ウーハーでマグネット2枚重ねは初めてですよね?
(乙訓) 市販のドライバーではやっていないですね。昔、FW220(CAMコーンのウーハー)の磁力を強くしてくれといわれて 200mm の磁石2枚重ね仕様のものを方舟(故長岡鉄男氏のリスニングルーム)に持って行ったことがあります。「低音が出ないね」で終わって持ち帰ってきました。(笑) 磁力が強くなり過ぎて低音が出なくて、商品化はされませんでした。
(荒谷) 今まで FEシリーズのスペシャルバージョンでは2枚重ねはありましたが、ウーハーでは初めてになるので楽しみですね。
(乙訓) 私も楽しみです。
(荒谷) あとは W160A-HR のプレートからポールピースのところにかけての形状ですね。(バックプレートからポールピースが垂直に立ち上がるのではなく、いったん円錐状に立ち上がってから垂直の円柱形状になっている)これは FE208-Sol の磁気回路もそうですね。
(乙訓) 磁束がボトムプレートからポールピースにかけてのところで飽和してしまうんですね。この部分で “交通渋滞” をおこしてしまうとせっかくマグネットが大きくてももったいないんですね。コストはかかってしまいますが。
(荒谷) あのパーツは実物をみると本当に立派ですよね。
(乙訓) 一つひとつのパーツの重さはそれほどでもないですが実際に組み合わせるとズシっとします。これを作っていると FE168ES(16cm の FEシリーズの限定ユニット。バックロード・ホーン専用。)みたいだなと。頭の中に 16cmフルレンジの構想も浮かんできます。
(荒谷) マグネットの断面図だけでこんなに盛り上がってしまいましたので次にいきましょう。
(お客様) ネオジムマグネットでは作らないのですか?
(乙訓) 軽くていいスピーカーができますね。
(お客様) デッドマスをつけて。
(乙訓) ネオジムはあまり大きいものがありません。大きくても 70mmくらいです。小さいのをいっぱい付けているものもありますが。
(荒谷) 確かに小さい磁石がたくさんついているものもありますよね? あれはどうですか?
(乙訓) どうですかね?
(荒谷) やってみてもいいんじゃないですか? あまりきれいな磁束にならないですか?
(乙訓) 一個一個が揃えばいいですが、揃うの?という疑問があります。やってみていないのでなんとも言えないですが。たくさん使えばひとかたまりになって結局同じかもしれません。興味がないわけではないですね。軽かったとしてもそれを前提に仕上げればデッドマスは必要ないです。今後の課題とさせてください。
(荒谷) 小さければ振動板の後ろのスペースも取れてよさそうですね。
(乙訓) 重くてデカいからいいではなくて、コンパクトで軽くても「いける」というものもやりたいですね。